そして、


「いや、今小野さんの首元に蜘蛛が」

「くっ……!?」


店長の口からその名前が出た瞬間に私はとんでもなく大きな声を上げて勢いのままその場に店長を押し倒してしまった。
慌てた彼も私の体を支えながら今起きた一瞬の出来事に驚いて頭にハテナを浮かべている。


「お、小野さん! この体勢はちょっと」

「いやぁあぁっ! 私虫駄目なんですぅうう!」

「え、そうなの!?」

「基本的に足が四本以上ある生き物は生理的に無理なんです!!!」


つまり動物と人間以外は無理! 店長は大丈夫と体勢を直して私の背中を優しく撫でた。それでも未だ私が彼の体に乗っかっている状態だった。
まだ体に蜘蛛がいるんじゃないかと思うと身の毛がよだつほど怖いし、どうしよう吐きそう。


「蜘蛛は何処かに行ったんじゃないかな?」

「ほ、本当?」

「本当」


上からクスクスと笑い声が聞こえてくる。私は涙ながらに顔を上げてみると店長が笑みは隠しきれていなかった。


「な、何で笑ってるんですか!?」

「いや、ちょっと吃驚して。それに小野さんにも苦手なものあるんだなって」

「あ、ありますよ……そりゃあ」

「うん、でも小野さんは勉強も出来るし、仕事する時もしっかりしてるし、勝手に強い女の子だと思い込んでたから。さっきもドアが突然閉まったり、電気が消えても冷静だったでしょ。だから今こう言う一面を見て、弱いところもある女の子なんだなって」

「……それで笑ってたんですか?」


私がそう尋ねると彼は申し訳なさそうに「ごめんね」と謝る。


「ちょっと可愛いなって思っただけ。あ、小野さんは蜘蛛怖かったのにこう言う風に言うのは悪いよね。ごめんね」

「……」


店長はいつも頼りなくて、格好悪くて。ヘナヘナしているし、抱き着いたらそのままの勢いで倒れそうだし(実際今倒れた)。
けど、いつも私のピンチの時には初めて会った時みたいに格好よく助けてくれて……