しかしそんな時間も長く続くこともなく、自分が年下の女の子を抱きしめているということに気が付いたのか、店長は慌てて離れてしまった。


「ご、ごめん! セクハラだよね!」

「いえ、ありがとうございました!」

「小野さんのセクハラとセクハラじゃないの基準が分からない!」

「私が嬉しいのがセクハラじゃないのです!」

「もっと分からなくなった……」


そんな話をしていてもこの状況は変わらないわけで、つまり私たちはこの真っ暗な倉庫に閉じ込められてしまったのだ。
店長は暗闇に慣れて落ち着きを取り戻したのか、冷静にこの状況からの脱出口を考える。


「小野さんは桐谷くんに頼まれてここに来てるんだよね」

「あ、はい。キッチンペーパー取ってきてって」

「キッチンペーパーは減りが早いし、もしかしたら小野さんが戻ってきてないことに気が付いて倉庫まで来てくれるかもしれない」

「それが一番早くここから出る手段ですよね」


ま、私はもう暫くこのままでもいいけど。
うふふと笑みを漏らすとドアを見つめている店長の背中にツーッと人差し指を這わせた。


「ちょ、小野さん!? こんなことしてる場合じゃないから!」

「いいじゃないですか、二人きりなんだし。イチャイチャしましょー」

「イチャイチャって、俺たち付き合ってないからね」

「それは店長次第じゃないですか」


またそんなことを、と暗闇の中でも彼が困った表情を浮かべているのが伝わってきた。
慌てた反応も可愛いなぁーと思っていると、息を吸い込んだと同時に喉に埃が入ってゴホゴホと咳き込んでしまった。


「だ、大丈夫小野さん!」

「だいじょ、ぶです」

「ここ暫く掃除してないから埃っぽいよね。ちょっとしゃがもうか」

「はい……」


うぅ、調子に乗った罰なのかもしれない。その場でしゃがみこむと店長は心配そうに私の背中を撫でてくれた。暫くして目が慣れてきて、店長の顔もしっかりと判断出来るぐらいになった。
店長はポケットからハンカチを取り出すとそれを床に引いた。


「はい、ここに触って」

「え、でも……」

「いいから。直ぐに出してあげるから待ってて」


すると店長は立ち上がってもう一度そのドアに立ち向かう。私のために何とかしてここから脱出しようとしてくれているんだ。
珍しく男気がある店長に惚れ直しているとガチャガチャとドアノブを動かしていた彼から「あっ」と短い声が漏れた。