店長もおかしな様子を見兼ねて「どうしたの?」と、


「いや、扉が開かなくて」

「え、ちょっと代わって」


場所を代わると店長と同じようにドアを開けようも力を入れる。しかし大人の男性が試してもドアが開くことはなかった。


「ここの扉前から建て付けが悪かったんだよね。もしかしたらさっき勢いよくしまったせいで壊れたのかも」

「えー、どうするんですか?」

「多分向こうから思いっきり押してもらったら開くはずだから誰か呼ぶよ」


そう言って店長は携帯を取り出そうとお尻のポケットに手をやるが、「ん?」と表情を歪める。


「あ、事務室に携帯置きっぱかも」

「ええ!?」

「小野さん持ってない?」

「携帯はフロアに持ち込み禁止なのでロッカーの中です」

「だよね……」


ということは誰の助けも呼べない状況ってこと?

店長はドアを叩いて「おーい」と外にいる人に声を掛けるが誰も返答してくれない。それもそのはず、この倉庫は店の一番奥にあって、フロアや厨房から遠く、きっと叫んだところで声は届かないのだ。

困ったなぁ、と声を漏らす店長を不安に思っていると不意に電気が消えて目の前が真っ暗になった。


「!? な、何!?」

「てんちょっ」


暗くなったことに驚いたのか店長が焦ったように私の体に抱き着いてきた。いきなりの出来事で私的には電気が消えたことよりもこっちの方が大事件だった。
店長は怯えたように上を見上げて「な、なんだ?」と声を震わせる。


「部屋に入った時にスイッチを入れてから蛍光灯がつくまで時間が掛かったので、もしかしたら寿命が来たのかも」

「そ、そんなぁ」


こんな時にどうして、と彼は残念に思っているが私はこの真っ暗な状況で店長と二人きりという空間に全力で感謝していた。ありがとう建て付け! ありがとう蛍光灯の寿命! 私は今世界で一番幸せです!