彼は気を取り直して「えーと」と、
「何か取りたいものあったんだよね。取るよ、何?」
「あ、キッチンペーパー。桐谷先輩に頼まれてて」
「キッチンペーパーね」
店長は軽く爪先立ちをすると棚の上にある袋に触れる。凄い、こうして見ると店長って身長高くて格好良いよね。
今まで店長って地味だし目立つことなかったけど、やっぱり顔も整っているし格好良いと思う。どうかこの魅力が誰にも伝わりませんように。
「はい、取れたよ。それとこんな不安定なダンボールの上に乗るとか危ないことしちゃ駄目だから。今度からは俺とか他の人でも良いから誰か呼んでね」
「はーい、ごめんなさい」
「本当に分かってる? 小野さんに怪我あって困るのは俺なのに」
「へ?」
「あっ……」
嫌なんでもない、と誤魔化す言い方をして私にキッチンペーパーを渡す。
私に怪我があって困るって、親にとやかく言われるから? それとも従業員が怪我をしたってお店の評判が悪くなるのを防ぎたいから?
「(……違う)」
店長の表情を見ていると彼の言葉の真意が伝わってきて、まるで伝染するかのように私まで顔を赤らめてしまった。
すると、
キィー……バタンッ
勢いよく倉庫の扉が閉まって大きな音を立てた。店長はその音に驚いたようで「わぁ!」と情けない声を出すと体を飛び跳ねさせた。
この人、さっきまで格好良かったのに今ので台無しだなー。ビビりなところも大好きだけど。
「店長安心してください、扉が閉まっただけです」
「ご、ごめん……情けないね、俺」
ごもっともです、と私たちは倉庫から出ようも閉まった扉に近付きそのドアノブを握る。しかしその時私はある違和感に気が付く。ドアノブをひねっても全くドアが開かないのだ。押しても引いても開かない。