そんなの私が出来るわけがない! というか高野さんのような格好いい人の隣に並んでいいような容姿でもないし、そんなことしたら周りの女性からの怒りを買ってしまいそのまま東京湾に沈められてしまうんじゃ……
首をブンブンと横に振ると「ですよね」と彼は照れたように微笑んだ。

しかしそんな私たちの様子を見て首を傾げていたのは近くにいた瑞希ちゃんだった。


「え、今の会話おかしいって思うの私だけですか?」

「おかしい、とは?」

「何ですか今の甘酸っぱい雰囲気! 見ているこっちが恥ずかしかったですよ! しーちゃん、それ本当に会話術の本なの?」

「う、うん……」


私はベリッと本のブックカバーを外して表示を確認する。
すると私は「え?」と目を丸くした。自分が思っていたような本のタイトルではなかったからだ。


「『意中の相手を落とす会話テクニック』? って、しーちゃんこれ会話術の本じゃないよ!」


そう、私が読んでいたのは恋愛指南本だった。そういえばあの時本の表紙をよく見ずに直ぐそこにあった本を手に取ってレジに持っていったかもしれない。

じゃあ私はずっと会話術ではなくて恋愛テクニックを学んでいたってこと?


「しーちゃんってちょっと天然なところあるよね」

「う、うん……」


自分にはまだまだ恋愛は必要ないって思っていたけれど、


「(もしかして神様からのお告げ?)」


なのかもしれない。


「あれ!? 蒼先輩なんか顔赤くないですか?」

「小野さん。ちょっと黙ってください」

「ひっ……」


その時見せた高野さんの顔は怖かったのだとあとあと瑞希ちゃんが教えてくれた。