こんなネガティブで欠点だらけの私なのに彼女はめげずに優しく接してくれて、その優しさに涙が溢れそうになった。
しかしそんな私たちの会話に「水を差して申し訳ないんですけど」と高野さんが口を挟む。


「小野さんには既に普通に話せているので実践相手には向かないのでは?」

「あ、確かに……じゃあ蒼先輩とかどうですか?」

「俺ですか?」


彼女の提案に「え!?」と目を丸くする。


「ほら、歳も近いし桐谷先輩みたいな顔が怖い人とか紅先輩みたいに声が大きい人と違って話し掛けやすい雰囲気があるし、まだ男性の中ではマシじゃないかと」

「はぁ、確かにそれはそうですね」

「じゃあ今から蒼先輩相手にその本に書かれてることやってみようよ」


私は慌てて首を横に振った。そんなおこがましいこと高野さんに頼めるわけがない。
しかしそんな私の様子に彼は「大丈夫ですよ」と何も問題がないことを示す。


「宇佐美さんの役に立てるなら嬉しいですし、俺でよかったらですけど」

「っ……え、と」


だけど周りの人と為にも私はこのコンプレックスを克服したいと決めたわけで、その為にはどんなことにも挑戦すべきだと思う。
私がよろしくお願いしますと言うと彼は安心したように「良かったです」と微笑んだ。この人本当にいい人だなぁ。


「ささっ、蒼先輩はしーちゃんの前に座ってください!」


瑞希ちゃんがそう促すと彼は私と向かい合うように目の前に椅子に腰を掛けた。
端正な顔が目の前にあることに怯むと思わず椅子を引いて距離を取りたくなるのを我慢した。


「蒼先輩、取り敢えずそのイケメンフェイスをどうにかしてくれませんか」

「実践相手には選んだのは小野さんなのに酷いですね」


顔は変えられないですよ、と困ったように表情を歪ませる彼。しかしその顔もまた格好いい。
この人がモテる理由がよく分かる。絶対に相手の期待を裏切らない人だからだ。


「取り敢えずその本に書かれてること実践してみよ」

「う、うん……」