「今日は小野とか高野兄とかいるらしいし、何かあればそこら辺に助けてもらえば」

「……そう、なんですけど」


だけど、それでも私は早く大人になりたい。

花宮さんは私が立っている後ろにある本棚のタイトルを眺めては「うーん」と苦し紛れに首を傾げる。


「別に焦らなくてもいいと思うよ。無理しても辛いだけだし。雫のペースで頑張れば?」

「は、はい……花宮さん、どうして私に優しくしてくれるんですか?」

「雫は小野と比べて大人しいし、自尊感情低過ぎてそれはそれで世話がかかるからかな?」


それは、ちょっと怒られているのでは。
彼女の言葉に持って精進しなければと自分に言い聞かせていると「瞳ー」と花宮さんの名前を呼ぶ声が耳に届く。

見知らぬ男性が手を振りながらこちらに向かって歩いてきていた。


「お前な、俺がレジ並んでる間にどっか行くんじゃねえよ。お前の本代だって出してんだぞ」

「ごめんごめん、知り合い見かけたから」

「知り合い?」

「っ……」


花宮さんと会話を交わすその茶髪の男性と目が合うと私はメデューサに睨まれたごとく体が固まって動かなくなった。
さっと目線を外すと「やっぱり男の人苦手」と胸元でぎゅって腕を握る。


「あれ、俺なんか怖がられてる?」

「アンタの声が大きいからじゃない?」

「えぇ、そんなにデカくねえだろ。しかも出させてんの瞳だし」

「ごめんね雫、私たちもう行くからさ」


自分が怖がられていると自覚した男性は「先店出てるから」と気を遣ってその場を後にしてくれた。
そのことが申し訳なくて、私は花宮さんに頭を下げる。


「あの、ごめんなさい……」

「いいの、気にしないで。じゃ、私ももう行くからさ。買い物の邪魔してごめんね」

「あ……今の人って彼氏さん、ですか?」