「(『人と目を合わせる方法』……こっちは『会話術ビギナー本』、か……)」
バイト先近くの本屋に立ち寄り、私は並ぶ書籍を手にとっては中身をパラパラと捲り、そしてやるせなく溜息を吐く。
同級生の瑞希ちゃんが働くファミレス、JOY STREETでアルバイトを始めて一か月ほどになる。仕事内容は一通り覚えたのだが声にコンプレックスを持ちつつ対人恐怖症でもある私はその仕事を全てこなせると言ったら嘘になる。
やはり人を前にすると話せなくなってしまうのは子供の頃に声が原因で虐められたというトラウマがあるからだろう。いつもこの声のせいだと思い続けて、いつしか大嫌いになっていた。
だけど言いたいことも言えない、気持ちも伝えられない。そんなんじゃこの先社会に出た時に痛い目を見るのは自分だって分かっている。
分かっていたから、私は今の私を超えたいんじゃないか。
「(どういう方法であれ、コンプレックスを治せれば……)」
いつまでも周りの人に頼っていたら駄目だ。
「あれ、雫?」
「っ!?」
聞き覚えのある声に驚いて後ろを振り向くとそこには私服姿の花宮さんが立っていた。
「今日バイト休み?」
「……あ、これから……です」
モゴモゴと口を動かしてそう伝える。花宮さんはよくバイトでも声をかけてくれるのに未だに顔をしっかりと見れない。
「ふーん、そっか。こんなところで会うなんて奇遇だね。今日私いないからよろしく頼むわ」
「(花宮さん、いないんだ……)」
どうしよう、更に不安になってきた。そんな私の様子を見かねて彼女が「大丈夫だって」と語り掛ける。