こんなんじゃ駄目だ、私。もっと努力をしないと。役立たずって思われる方が嫌だもん。
自分のコンプレックスを克服するためとはいえ、周りに迷惑をかけないようにしたい。


「あ、あの……」


そう小さく呼び掛けると茶髪の彼がこちらを振り返った。いつ見てもその顔の端正さには怯んでしまう。
高野蒼さんは私を見つけると「あぁ、」と微笑んで、


「宇佐美さん、どうかしましたか?」

「……さっきは、す、すみません、でした……」


自分の口から聞こえてくる舌足らずな声に耳が塞ぎたくなる。
なのに彼は全くそのことを気にしていないのか、「大丈夫です」と首を横に振った。


「気にしてませんよ、こういう時は力を合わせることが大事ですから」

「で、でもアレくらい自分で対処しないと駄目だなと、反省しました……それで謝りたくて」

「はい?」

「こ、こんな遠くからですみません!」


あまりにも近すぎると高野さんの顔面で怖気ついてしまいそうな気がしたので私と彼の間には三メートル程距離が空いていた。
バックヤードで周りな人がいないことを確認して話しかけているので色々と注意を払う必要がある。

彼は不思議そうに首を傾げて、


「宇佐美さんは男の人が苦手なんですか?」

「え、えっと、その……人を前にすると威圧感で何も話せなくなってしまうんです……特に男の人は……」

「なるほど、じゃあ紅とかは一番駄目ですね。五月蝿いし五月蝿いし五月蝿いし」


五月蝿いって今三回言った。そんなことを考えていると彼は無理に私に距離を近付けようとせずに「安心してください」と、


「出来る限り宇佐美さんのフォローします。店長もそうおっしゃっていましたし、それに前よりは沢山話せていると思いますよ。宇佐美さんはちゃんと成長出来てます」

「それは……」


流石にアルバイトで最低限はスタッフとコミュニケーションを取らないといけないと思ったのと、高野さんはまだ他の男性よりも話し掛けやすい印象があったからだ。
彼は「それじゃあまた何かあったら直ぐに言ってください」と告げると仕事へと戻ってしまう。その背中を眺めながら、自分の不甲斐なさに溜息が出つつも、彼に言われた言葉に少しだけ心が救われた気がした。

高野さん、いい人だな。