七月の試験も終え、あと一日だけ登校すれば夏休みになる。いわば試験休みの間。
無事に赤点を取ることなく、夏休みにも補修はない。

それなのに私、宇佐美雫はとある焦りを感じていた。


「しーちゃん、次の団体のお客さん案内お願い!」

「は、はい!」


慌ててメニュー表を持って店の入り口へと向かうと足を止めた。白のユニフォームに身を包んだ男子高校生が十人ほどたむろっていたからだ。
近くに男子高があるのでそこの野球部だと思うがそれでもその体の大きさに驚いてしまう。

だけど部活帰りにファミレスに寄るのなんて普通だし、いちいちこんなことでためらっていては……

でも……


『雫〜、お前本当に変な声してんなぁー!』

『雫がいるから合唱で俺ら音程合ってないんじゃね?』

『ヘリウムガス吸ったみたいな声だもんなー』


人前は苦手だ。特に男の人は。私の声を嘲笑って、虐めてきた同級生たちの言葉が頭を過る。
震える手でぎゅっとメニュー表を握って突っ立っていると後ろから肩をポンと叩かれた。


「ここは俺がするので宇佐美さんは料理運んでください」

「……あ」


手助けをしてくれたのは兄の方の高野さんだった。その柔らかい微笑みに一瞬涙腺が緩み掛けたのを堪えて頷くとバックへと戻っていった。
不甲斐ない、こんな仕事ですら出来ないなんて。でも男の人を前にすると子供の頃の記憶が蘇って、息が苦しくなる。