トボトボとお店に戻り、裏口から中に入ると待ち構えていたかのように店長が私に気が付いた。


「おかえり、お客さんが忘れたもの届けにいってくれたんだってね。ありがとう」

「……」


ん?、と首を傾げる店長の隣を私は何も言わずに通り過ぎようとする。
私の様子がおかしいことに気付くと彼は私の腕を掴み、「どうしたの?」と尋ねた。


「元気ない? なんかあった?」


私の頰を撫でるように顔を持ち上げた彼が目を合わせる。その瞳の優しさに私は彼の体に抱き着きたくなる衝動を抑えた。

私、店長の優しさに漬け込んでるのかな。きっと相手が店長じゃなかったら初めからスッパリ振られてしまっているはず。今の太田みたいに。
私は太田みたいにはなれない。だから私が今店長を好きでいられているのは彼が私に優しくて、そして強く拒否を示さないからだ。

太田にはあんなことを言ったけれど、私はハッキリ言われるよりも曖昧にされる方がマシだ。いい、じゃなくてマシ。
だけどそれはきっと店長に甘えているってことなんだろうな。

店長が「小野さん大丈夫?」と頭を撫でてくれる。


「……ちょっと反省してます」

「うん、少し休んだ方がいいかな?」


大丈夫だよ、と私のことを包み込んでくれる。ずっとこうしていて欲しいと思った。