「帰ったのはいいんだけどあの子忘れ物していったのよね」

「え、何ですか?」

「これ、めっちゃ重いんだけど」


そう言って彼女が持ってきたのは紙袋の中に入った大量の参考書だった。きっとここに来る前に太田が本屋に寄ってこれを買ってきたのだろう。
そういえば太田は中学の頃は勉強が得意な方じゃなかった。そんな太田が今の高校に入ったのは何かの奇跡だって騒がれたこともあったっけ。


「今ならまだ間に合うから私ちょっと」

「私が行きます!」


花宮さんから奪うようにその紙袋を受け取ると慌ててお店を出た。

ただ気まぐれに、そうただの思い付き。
だけどちゃんとアイツに言わなきゃいけないことが出来たから。


「あれ、小野さんどこに行ったの?」

「店長もあんまりうかうかしてられませんよ。まさか店長にライバルが出来るとは」

「……ライバル?」





駅に向かって走っていると見覚えのある背中が見えてきた。


「太田ー! 太田止まれー!」


私の必死の呼び掛けにより気が付いた太田が足を止めてこちらを振り返った。


「うわ、みず……小野! どうしたお前」

「どうしたじゃないよ、忘れ物! こんなに大きいやつ忘れるのかわざとか!」

「あ、本当だ。いや、わざとじゃなくて本気で忘れた」

「アンタ、たまにそういうところあるよね」


鈍感プラス天然って、最早最強の布陣じゃないか。
思わずムッと顔をしかめると私はその紙袋を押し付けるように渡した。


「わざわざありがとな」

「……じゃなくて」

「じゃなくて?」

「……」


駄目だ、気付いたからにはちゃんと話さないと。
そうじゃないとずっと気にして、店長に対する態度にも関わってくる。


「……アンタに言いたいことあるから」


深呼吸を繰り返し、私はついに意を決して話し始める。


「取り上げずキツイことばっか言ってごめんね。ちょっと言い過ぎたわ。あと昔急に距離を取ったのも謝る、ごめん」

「は? お前が謝るとか逆に怖いんだけど」

「ちょっと反省してるんだから口出してくんなよ!」


素直に聞いとけ!と私は太田の口を塞ぐ。


「……私、好きな人がいるって言ったじゃん。私もアンタと同じであんまり相手にしてもらえてないんだよね」

「あぁ、あの店長だろ」

「はぁ!? な、何で知っ」

「いや分かるし、あんなに態度が変われば」