しかし太田は全く気にしていないのか、逆に嬉しそうに笑っている。


「え、なんなのアンタ。ドM?」

「ちっげーよ! ただお前とこうやって言い合うのやっぱ好きだなって。中学の時は普通に話してたし」

「そうだっけ?」

「そーだよ。俺が告った瞬間にお前が距離置き始めたんだよ」


あぁ、確かにそうだったかもしれない。太田とは中学の頃はよく話す仲のいい男友達だった。だけどある日私を好きだと言ってきた太田に私はショックを受けてしまったんだ。
私は太田のことをただの友達としてか見ていなかったのに対し、太田は私に何やらの気持ちを持って接していて、それが急に怖くなった。

だから自然と太田とは話さなくなった。それは唐突すぎて太田を困らせてしまったのかもしれない。
そうか、今の太田を作ったのは私だったのか。


「……」


ごめんの言葉が口から出てこない。すると「小野さん」と店長に名前を呼ばれた。
結局私は最後まで太田に何も言えずにその場を後にしてしまった。

次にフロアに戻ってきた時、太田の姿は既になかった。


「あの子? あぁ、ご飯食べたら直ぐに帰って言ったけど。話出来たの?」


花宮さんの言葉に何も返せなかった私に彼女は「そっか」と呟く。

大丈夫、学校と同じだし、どうせまた告白してくるでしょ。謝る機会なんて幾度もある。
あぁ、でも私のこと追いかけるのやめたんだっけ。あれって私のこと諦めたってことだよね。ようやくか、ここまで来るの長かったな。


「(全部私が理想通りのはずなのに何でこんな気持ちになるんだろ)」


納得いかずにいる私を見た花宮さんは再び溜息を付く。