「あ? あーっ!! 本当だ!」

「今更気が付いたのかよ。てかそれ言わない方が良かったんじゃ」


流れで話を聞いていた桐谷先輩が苦い顔でそう呟く。しかし花宮さんはそんな私のことを甘やかしてはくれなかったのだ。
本当だ、私だって店長が困っているのを知りながらも好きっていうのをやめなかった。それって今の太田とそう変わらない。

どうして気が付けなかったんだろう。


「店長はさ、もう三十路手前だし大人だから小野みたいなのにああやって優しく対応してくれるから小野は気が付けなかったんだろうね。あんまり人の好意を拒否しすぎると相手は傷付くってこと」

「……」

「今なら分かるでしょ。その子の気持ち。誰よりも小野が分かるんじゃない?」


さてそろそろ仕事しないと店長が泣くな、と彼女は私の頭を優しく撫でてフロアへと入っていった。事実を突きつけられた私はその場から動けなくなる。

本当だ、私がしてることって太田と同じことだ。私だって店長に冷たい態度を取られたらショックなのに、それなのにそのことに気が付かずに太田にずっと酷い態度取ってた。
ただ好きだから、その気持ちはお互いに一緒なのに。


「(でも、私は……)」


小野、と名前を呼ばれてコトンと作りたてのドリアが置かれる。


「それ、熱いうちに持ってけ」

「……はい」


桐谷先輩から受け取ると私は彼のいるテーブルへと向かった。
意識するとどう接していいか分からず、私は無言でドリアの皿を彼のテーブルの上に置いた。


「……ありがと」

「……」


あんなに酷いこと沢山言っておいて、なんて言えばいいのか分からない。
彼のテーブルから去ろうとしない私を見て太田が先手を取った。


「もうここに来ないから安心しろよ」

「え?」

「お前の後もつけたりしねえし。ただ今日はお前のバイト先が安全かどうか見にきただけだ」

「やめてよ、なにその彼氏面。キモい」


言ってからハッと気が付く。またいつもの流れで酷いことを言ってしまった。