「ていうか店長、何気にネクタイも付けてノリノリですね」

「そんなわけないでしょ……中途半端にやると小野さんにまた着替えさせられそうだから」

「私の為にですか?」

「っ……そんなキラキラした目でこっち見ないで」


私を押し退けるのを諦めたのか、彼は抱き着かれることに抵抗をしなくなった。
少しずつ、少しずつ距離が縮まってきていると思ってもいいのかな。この距離がいつかは離れることのないものになると思ってもいい?

一ミリぐらいは私のこと気にしてくれてるって自惚れてもいいの?


「そ、そろそろ離して。こんなところパートさんや花宮さんに見られたら俺の人生終わっちゃ」


う、と店長が言い終わろうとしたその時、休憩室の扉がガチャリと開いた。


「あ、店長こんなところにいたんですか。さっきのレジでのミスですが、あれって……」


そう口にしながら休憩室に入ってきた花宮さんはこの状況を目の当たりにして言葉を失う。
私が顔を上に上げると店長はこの世の終わりを告げられたかのように顔を真っ青に染めていた。


「……まず、何処に通報したら正解ですかね」

「待って花宮さん。これは違うんだ、話を聞いて」

「犯罪者はみんなそう言うんですよね」

「話を聞いて!」


この後、様々な誤解を解くのに一時間はかかったそうです。


「ところで小野さん、約束守ってね」

「……何か約束してましたっけ?」

「……」


流石の店長も小野の頰を抓ったそうな。