「て、店長! 私凄くドキドキしてきちゃいました!」

「俺も小野さんとは別の意味でドキドキして気が変になりそう……」

「じゃあ店長、出てきてくれますか?」

「……」


ドアを突き抜ける程に大きな溜息が耳に届くと、ドアの鍵が外され、ゆっくりとその扉が私の方へと開く。
おずおずと姿を現した店長の表情は真っ青で、この部屋に入る前とはまるで別人のように老けて見えた。

襟元に蒼先輩の学校の紋章が入ったYシャツを白いラインが入ったシックな色のネクタイで締め、その上からはネイビーのブレザーのジャケットを羽織る。
桐谷先輩の発言とは大間違いに足もしっかりといつものスラックスから蒼先輩の制服のズボンを履いてくれていることに感動する。

そして一番大事な中身の店長はというと、恥ずかしさが頂点に達したのか、久々に腕を通した制服に落ち着かずにはいられない様子だった。


「(ど、どうしよう……)」


思いのほか全然似合ってない!!


「似合ってないな」

「似合ってないですね」

「あ、ちょっと二人とも! 店長が折角着てくれたのに!」


あぁあ! 桐谷先輩と蒼先輩がそんなこと言うから店長が更衣室へと戻ろうとしているではないか!
慌ててフォローするように「お似合いです!」と口にするが、彼の顔からはもう生気が抜けているように見える。


「いや、常識的に考えて三十路手前の制服はキツイだろ」

「ですね。店長は見た目が若いから大丈夫かもしれないって思ったんですが、そうでもなかったですね」


桐谷先輩は分かっていたけれど、蒼先輩が意外と毒舌だ。