返事がないところ、この後の展開は嫌なほど分かっているのだろう。


「そこに蒼先輩の学校の制服がありますよね?」

「いやいやいや! 小野さん! それは本当にまずい!」

「私はいいですよ? 店長が裸で出てきても。周りの目が気にならないのであれば」


私と店長の会話を聞いた桐谷先輩が「むごすぎる」と言葉を漏らした。


「店長が嫌ならもう制服デートの“デート”部分は強要しないことにします」

「デートよりもハードルが高い制服の部分は強要するんだ!?」

「お願いします! 私の夢を叶えてください! 似合ってなくても笑わないんで」

「……そういう問題じゃないんだけどなぁ」


でも店長、さっき今日は用事があるから帰らなきゃって言っていたし、何が何でもここから出なくてはいけないのだろう。
店長を苦しめるのは私も心苦しいけれど、でもさっき彼に言われた言葉に彼以上に傷付いているのだ。

私は店長以外の人となんかデートしたくない。


「み、瑞希ちゃん……」

「しーちゃんは黙ってて。これは私と店長の問題だから」

「……」


心配そうなしーちゃんにそう笑いかけると私はまた一歩男子更衣室へと近付く。

そして、


「店長、本当に私が誰とデートしてもどうでもいいんですか?」


そんな悲しいこと、言わないでほしい。


「……小野さん」

「私が他の誰かを好きになったって、店長は何とも思わないんですか? 本当に一ミリたりとも? ちょっとも悲しくならないんですか?」

「……」


それは、と口吃る店長に腹が立つと「分かりました!」と扉に向けて声を上げる。