「(……でも)」


私はもう一度彼の姿に目を向ける。

不良たちが怖かったのは本当のことなのだろう。そして今凄く困っているのだって本当。
何となく、私を助けてくれたのはお店でアルバイトをしてほしいってだけじゃないと思う。

まだ出会ってばっかりで名前も何も知らないことが多いけど……
私、この人のことをもっと知りたい。


「駄目、かな? 一日体験アルバイトっていうのもあって……」


そう言って私の様子を伺うように顔を上げた彼の目と目が合う。
その目はどこか怯えているように見えて、小動物的な可愛さを覚えた。

既に心は決まっていて、私は肩から掛けていた学生鞄の紐をぎゅっと握り締めた。


「あ、あの……そこに行けば貴方に会えるんですか?」


私の質問にきょとんと首を傾げた彼だったが直ぐに優しく微笑んだ。


「うん、俺は店長だからね。もし興味があったらバイトしてみない?」


初めて感じるその気持ちに私は戸惑いながらも心が突き動かされていく。
彼の優しさに触れて、もっとその人柄を知りたいと思った。

もう一度ジョイストのチラシに視線を落とす。
バイトは初めてだけど、でもここでこの人との関係を終わらせたくない。


「私でよかったら、是非」


なにがそう思わせたのかは分からないけれど、そう告げた後の彼の嬉しそうな顔を見て、すとんと胸の中に何かが落とされた。