ど、どうしよう。やっぱりこんなんじゃ駄目かな。小学生の男の子に対したら可愛すぎた?


「じゅ、ジュースは直ぐに元に戻るから、だから心配しないで……ぴょん……」


徐々に顔を中心にして熱が集まる。顔が赤くなるのを紛らわすようにウサギの手を動かしてみる。
あまり反応がない様子で私がもう諦めようとした瞬間だった。


「かわいい……」


男の子の口からそんな言葉が漏れた。


「ウサギさんだ!」

「っ!」


見ると男の子の顔にはもう涙はなかった。それどころかそこにはウサギを見つめて笑っている笑顔があったのだ。
その笑顔を見て、私は自分のしたことが間違いではなかったのだと気付く。


「そ、そうだぴょん。ウサギだぴょん」


どうぞ、とウサギの人形を男の子に渡すとその子はそれをぎゅっと胸に抱いた。
私もそんな彼の様子を見て自然と笑みが零れる。

すると男の子の母親だと思わしき女性が私に「ありがとうございました」と感謝の言葉を述べてくれた。


「い、いえ!泣き止んでもらえてよかったです!」


あれ、そういえば私、ここで働くようになって初めてお客様と顔を合わせてお話しすることができたかもしれない。
それにこんな注目されるようなこと、あっさりと出来てしまった。

ウサギの人形を掴んでからここに来るまで、一度も足が止まらなかった。それぐらい必死で、それ以外のことが頭の中になかった。

おかしなことに胸の中が凄くスッキリしている。
ただこの男の子に笑って欲しくて……


「ウサギさんの声かわいい」


ただ、人を笑顔にしたくて……

自分に自信が欲しい。自分を好きになりたい。誰かに好きになってもらいたい。


「ありがとう」


出来る気がする、"ここ"でなら。


まずは、今日のこの一歩から。