しばらくしてお店で働いていると店内に子供の泣き声が響き渡った。
お客様たちがその鳴き声が聞こえる方へと視線を向ける。

小学生くらいの男の子がコップに入ったジュースをこぼしてしまって泣いてしまっているようだ。
他の店員さんが零したジュースを拭いているがそれでも男の子は泣き止むことはなかった。

徐々に周りのお客様の視線が厳しくなるのを感じた。きっと零してしまったことに吃驚してしまったのだろう。
周りの店員さんは気にしながらも自分の仕事に追われているようでチラチラと視線を寄せるのみ。レジに立っていた私はおろおろと周りを見渡す。

きっとこのままの状態じゃ大変になる。
そう思った私の目に映ったのはレジ前にある子供用のおもちゃであった。

私はその中の一つのウサギの人形を掴むとその泣き止まぬ男の子のところへと向かった。


「(泣き止んでくれるかどうか分からないけど、やるしかない)」


急に現れた私に顔を見上げる男の子。私はその子の目線に合わせてしゃがむと顔の前にウサギの人形を出した。

そして、


「う、ウサギさんだよー……」


一瞬、ファミレス内がシンと静かになった。
零したジュースを片付けていた店員さんも私のことを驚いた目で見つめる。