私が悲鳴を上げたのと同時に後ろから同じくらい情けない叫び声が聞こえてきた。
え?、と後ろを振り向くとそこには私の同じ怯え方をする店長さんの姿があった。

店長さんは胸を押さえながら姿勢を直すと、


「い、いきなり声挙げるから吃驚した……」

「ご、ごめんなさい……」

「ううん、俺も急に声かけてごめん」


大変申し訳なさそうに謝るので「こちらこそ!」と彼よりも深く頭を下げる。
店長はこのお店で一番偉い人。だからこの人を怒らせたら即刻クビになってしまう。


「宇佐美さんは何して……あぁ、掃除してくれてるの?ありがとう」


私のほうきを見た彼がそう言うと私はコクコクと首を動かす。
すると少しずつ距離を取り始める私に彼は何かを察したのか、


「う、うん……少しずつ慣れてくれたらいいから。まぁ、小野さんほど馴れ馴れしいのは困るけどね」

「……」


初めて店長さんに会った時、てっきり怖い人だとばかり思っていたけど話を聞いている分には何処にもそう言う部分は見つけられない。
普通に優しいいい人だとは思う。お店の人からの信頼も厚い。

特に瑞希ちゃんはこの店長さんのことが凄く好きでお店に来るまでの間にも店長さんとの話を私に聞かせてくれる。

瑞希ちゃんと店長さんって、


「(付き合ってるんだよね……?)」

「バイトはどんな感じかな? 慣れてきた?」

「え、あ、と……」


キョロキョロと意味もなく周りを見渡す。
そして絞り出すように言葉を紡ぐ。