「わ、私……宇佐美雫と言います……よ、よろしくおねがいします」


震える声でそう伝える。今の私には精一杯だった。
それでも私が初めて会った人に自己紹介出来ただけでも成長できているのではないか。

相手の反応が怖くて目を閉じていてほうきの柄を握りしめていたがゆっくりと力を抜いて瞼を上げた。
するとさっきまでオラオラ顔だった紅先輩の表情がキョトンとしていた。

そして、


「何だ、お前の声変だな」

「！？」


こ、この人……直球すぎる。どうしよう、私が苦手な人種No. 1かもしれない。
こんな人と一緒にお仕事なんてできるわけがない。後から来た私が悪いんだから私がここから去るべきだよね。

絶望感を感じていると蒼先輩が紅先輩の頭を思いっきり強く叩いた。
そんな暴力的なことをする人には見えなかったので驚いているも私には優しげな表情を向けてくれる彼。


「すみません、横の分からず屋が」

「い、いえ……」


今の一瞬で悟った、多分この人は怒らせたら一番駄目な人だ。もし怒らせでもしたらきっと足をセメントで固められて日本海に沈められる。
ここで平凡に過ごしたいならこの人には関わらない方がいいのかもしれない。

何でもマイナスの方向に考える私に蒼先輩はにこやかに微笑みかけた。


「紅のことは気にしないでください。俺は宇佐美さんの声凄く可愛いなって思いますよ」

「か……？」


か、わいい……可愛い！？ こんな格好いい人に私可愛いって言われた！？
何で恐れ多いんだ！ 今度は全国の美少女さんに東京湾に沈められる！