「新しいバイトの人ですよね。初めまして、高野蒼って言います。こっちは弟の紅。双子だからややこしいかもですけど間違えても怒らないのでよかったら仲良くしてください」

「おい、何で蒼が俺の紹介してんだよ」

「紅がしたら勘違いが起こりそうだからだよ」


距離を詰めてくる彼らにほうきを引きずりながら後ろへと下がる。しかしそれも間に合わず、彼らは私の目の前にまで来てしまった。
どうしよう、こんな格好いい人二人も一緒に見ることなんてできないし、さっきから心臓が尋常ではない速さで脈打ってる。

先程の口調を聞くに、このお兄さんの方である蒼先輩は大人しく優しめな性格で、弟さんの紅先輩の方は喧嘩腰の荒っぽい性格のようだ。
確かに顔は瓜二つだけど表情には大きな差があるように見えた。

私が二つの顔を交互に見つめていると紅先輩がぐいっと前を出てきた。


「てかよー、何でお前しゃべんねぇんだ?」

「っ!?」


顔を覗かれて私は息を呑んだ。


「さっきから俺の顔ジロジロ見やがって。なんか文句でもあんのかよ」

「あ、え……」


ガンを飛ばしてくる紅先輩に言わずもがな私は怖気付いた。
瑞希ちゃん、このお店の人はみんな優しい人ばっかりだって言ってたけど、この人を除いてはそうかもしれない。

多分私、この人に毎回因縁をつけられてそしてストレスで死んじゃうんだ。
辞めよう。こんなお店早く辞めよう。


「やめなよ紅、年下の女の子にみっともないよ」

「あん?だってよぉ、自分の名前もなのらねぇんだぜ」

「っ……」


紅先輩に図星を突かれた私は口を閉じたまま動かなくなった。
このまま自分の名前を言わないまま立ち去るなんて失礼極まりないかもしれない。

そうだ、これからもお世話になる人だったらお客様よりは絶対にマシだ。
私はそう思って薄くだったが唇を開いた。