振り返ると厨房から覗く顔が一つ。その顔の端正さに怖気付くと私は後ろへと退いた。
た、確かこの格好いい人は桐谷先輩と言ったかもしれない。バイトを始めた初日に顔を見たことがあるけどそれだけで話したことなんてなかった。

ど、どうしよう、私何かしたのかな。
じっと私のことを見つめる桐谷先輩の瞳は真っ暗だった。


「新しく入ってきたバイトだっけ?」

「は、はい……」

「これ、四番テーブルね」


台の上に置かれたハンバーグに私の視線が移る。早く運ばないと冷めてしまう。
だけど私がお皿を受け取るまで桐谷先輩は離れるつもりはないのか。そこにいられると私は取りに行けないんだけどな。


「あ、あの……」

「何」

「……」


怖い、顔が整っているからかその分真顔が物凄く気持ちを圧迫してくる。それにまだ対人恐怖症を直せてなんかいない。

おどおどしていると桐谷先輩は思い出したように、


「あぁ、店長が言ってたのってアンタ?」

「店長さん?」

「そういうことか、迷惑掛けない程度に早くそれ治しなよ」


桐谷先輩はそう言うと厨房の奥へと戻っていく。
店長さんから聞いたって、もしかして私が人見知りだって桐谷先輩に伝えてくれてたのかな? 彼ならそれくらい気を遣えるかもしれない。


「あ、あの!」

「……」

「ありがとうございます!」