「うん、じゃあ宇佐美はこれから瞳さんって呼んでね」

「え!?」


無理だ! 歳上の人を下の名前で呼ぶなんて! しかもバイトチーフを!
私がブルブルと顔を震わせているのにも関わらず花宮さんは手を離してはくれなかった。


「ちょっと花宮さん! 何してるんですか!」

「何、小野。いたの?」

「いたでしょ! 私と会話してたでしょ!」


ていうか可愛いのが好きって初耳ですよ!、と言えば彼女は「そりゃ言ってないもの」と呆れたように自分の顔を指差して答える。


「ほら、私って身長高いし目付きも悪いから可愛いの好きって柄じゃなくて。自分がそうだから尚更そういうものに惹かれちゃうの」

「なら何で今まで私にそうならなかったんですか?」

「だって小野可愛く無いじゃん]


花宮さんから直球のスマッシュを食らった瑞希ちゃんはショックを受けたように顔を真っ青にした。
私は慌ててフォローするように、


「み、瑞希ちゃんも可愛いよ」

「しーちゃん……」

「"も"ってことは自分が可愛いのは認めるのね」

「はっ」


そんなはずでは、私は瑞希ちゃんをフォローするつもりが更に変な展開を招いてしまって驚きを隠せなかった。
我に返った瑞希ちゃんはこれ以上私を花宮さんのそばに置いておくのが危険だと分かったのか、私の腕を引っ張ると、


「し、しーちゃん逃げるよ!」

「え?」


そう言ってぐいぐいと私のことを更衣室の外へと追い出すとドアを叩くように閉めた。
私もあのままだと花宮さんの餌食になりそうだったから何とか助かった。

それにしても花宮さんのギャップ……私よりも凄いかも。


「まさか花宮さんにあんな秘密があったなんて。人は見た目で判断したら駄目なんだね」

「(でも瑞希ちゃんにはそれを一番知って欲しかった……)」


瑞希ちゃんは腕時計の時刻を見ると「タイムカード押さなきゃ!」と再び私の腕を引っ張った。

今でもまだ知らない人の前で声を出すのは怖い。だけど支えてくれる人がいてくれるのは心強い。
いつまでもそんな状況に甘えてたら駄目なんだ。