ちょっと待っててね、と事務室の外へしーちゃんを待たせるとそろりそろりと彼に近付いた。


「てーんちょ!」

「っ……」


ビクッと体を震えさせた彼は私を振り返ると「あれ?」と目を丸くする。


「な、何で小野さん? 今日シフトには」

「遊びに来ました」

「遊びならお店の方に出ようね」

「間違えましたお仕事でした」

「お仕事なの?」


シフト入る?、と困った表情を向けられ私は首を横に振った。


「実はですね、新しいアルバイト希望の子が来ました」

「え? 連れてきてくれたの?」

「はい、今時間ありますか? 私の相手してるしありますよね」

「別に相手をしてるわけじゃ……まぁ、いいか」


やったーと喜ぶと私は外にいるはずのしーちゃんの名前を呼ぶ。しかしそこから何秒経とうが彼女が扉の前に現れることはなかった。
予想を大きく裏切られ、私は「あれ?」と首を傾げる。


「来てるの?」

「来てるんですけど」


まさか!私はそう思い立つと事務室に店長を残して外へ飛び出した。
そして人通りが少ない道を通って歩いていくと彼女は大きな棚の陰に隠れるようにして座り込んでいた。体が小さいから更に分かりにくくなっていた。


「しーちゃん、どうしたの急に。店長に会わなきゃ」

「っ……」


私がそう呼びかけると彼女はビクッと体を震わし、そして自分の体を抱き締めるようにして縮こまった。

そして、


「やっぱり無理です」


そう消えてしまいそうな声で言う。


「無理って、約束したじゃん。諦めないって」

「で、でも……」


しーちゃんの表情は今にも泣き出してしまいそうなほど苦しげだった。
彼女は震える声で絞り出すようにしてそのことを私に告げた。


「私、声以外にもう一つ……問題があるんです」

「え?」


問題?