自分で言ってしまうのだが、私は他の皆と比べて男性の好みがおかしいのだ。
友人がアイドル雑誌を指差しながら勧めてくる顔が整った男性にときめいたこともないし、同学年のイケメンと評される男子生徒を見てもはしゃぐこともない。

別に男に興味がない訳じゃなくて、そんな人たちよりも私の心を虜にしてしまう人がいるのだ。

そう、その人が……





「店長!」


こんにちは!とその背中に声を掛けると私の声に吃驚したのか、彼の両肩がビクッと跳ね上がった。
こちらを振り向いた彼は私に怯えた様子で端正な顔を綺麗に蒼く染め上げている。


「お、おおお小野さん! 今日来るの早いね!?」

「はい、店長に早く会いたくて学校終わってダッシュで来ちゃいました」


会いたかったー!と両手を大きく広げて彼の身体に向かって駆け出す私に、店長は「うわ!」と30歳手前の男性としては情けない声を上げる。
慌てた様子で私の両手を掴むと近付きすぎないようと身体を引き離し、一定の距離を保った。


「店長、女子高生の二の腕に触れるなんて……セクハラですね」

「ええ、どちらかと言えばセクハラされそうになってたのは俺の方だと思うんだけど」

「え、これはセクハラじゃなくて愛情表現なのに」

「それ言えば何でも許されると思ってるでしょう」


本当にやめてねと私が抱き着こうとしなくなったのを見てゆっくりと腕を離した。
遠のいていく細いその手首を見るとやけに胸が波打つ。白いなぁー、多分外にあんまり出ないからだよなー。不健康。