頭から冷たい氷水でびっしょりと
濡れたわたしだけど、

「淑女として、あるまじき、姿。
失礼しました、では、」

着物のご令嬢にさ、正面切って
出ていくつもりだったのによ。

「マユ、stay。ヤマモリ!」

ケイは、一言いいはなって、
「アサミは、バスルームだ。」

言うが早いか、人を米俵みたいに
肩にさ、担ぎ上げるのよ!

「ケイ!!下ろしてよ!帰る!」

全く動じないまま、ペントロフト
2階への階段を 担ぎ上げられて
来たのは
開放的なマスターベッドルーム。

「静かにしろ。落ちる。」

事も無げに言うケイの肩から
アサミが暴れて見まわす。

ベッドルームの窓からは
眼下に、ヒルズヴィレッジの緑
だけではなく、夜なら夜景が
楽しめそうなアーバンな風景。

放してよ!

「別にここで下ろしても?」

クイーンサイズのベッドを
目の前に、ケイが 面白そうに
笑ったけど、すぐに
通り抜けた先は、
隣のテラスビューなバスに続く
パウダールーム。

シューズロングソファーに
アサミを 座らせて、

「すぐ、シャワーをした方がいい
服はランドリーに出すから、
すぐ乾く。バスタブも使え。」

言いながら、クローゼットから
バスローブをアサミに投げる。

「いいってさ、あ、大した事ない
ですから、このままで帰ります」

言い直して、ローブもケイに
突き返すアサミを、ケイが忌々し
そうに見て

「その、underwear、見せて
アサミは、歩くのか?」

隣に ガッと腰かけると、
パウダールームの鏡に むかって
アサミに見ろと、仕草する。

うっー。服がさ、濡れて
下着が 透けてるよ。

鏡に 映る、有られもない自分に
ドギマギしてたから、

椅子の背もたれを、掴んで
ケイにワンピースのボタンを
外されたのにも 出遅れた!

器用に、上半身を剥がされて

「ランドリーに出す。このまま
破かれたくはないだろう?」

言うが早いか、今度は剥き出しの
ウエストを嘗められて

なっ。

アサミの腰が 思わず浮く。

それにあわせて、ケイは不敵に
口を弓なりにして
足からスルリと濡れたワンピースを抜いて、
「酷い、makeだぞ。」
言い捨てて 出て行った。

本当にさ、信じられない。

ワンピースは 濡れてたけど、
ブラショーツはセーフ。
秋に氷水はさ、
さすがに 少し寒くなるよ。

アサミは、意地をはるのを
諦めシャワーすると
ケイの言うとおり
剥げかかったメイクを流した。

「水をさ、掛けられるなんて、」

学園にいた時でもなかったよ。
泥棒猫か何を 追い出すみたいな
衝動なんだとさ 思うと

「惨めだよね。」

只でさえ時間のかかるメイクをさ
仕上げることも出来ず。

『いつまで、そのフェイク
スタイルでいる つもりだ。』

ケイの指摘が響く。

パパがさ、事業に失敗したのか、
恨みを買ったのか、何かに手を
出したか、蒸発してよ? 10年。
未だにどうなったか、
わからないまま。

『やめろ、やめればいい。』

10年してもう、大丈夫なのかさ?
やめても大丈夫なのか?よ

アサミは、手早く乾かせた髪を
1つにまとめる。

『アサミは何故 ウソをする』

会社への不利益はさ、10年の時と
パパがそのまんま残してた
地産でなんとかなったとしてよ、

「人の気持ちとか、恨みは?」

バスローブを着ておかなきゃ
いけないのかと、思ったけどさ
ワンピースが 乾燥出来ていたよ。
仕事が早いね。

ベッドルームを抜けて、
ロフトの吹き抜けから見下ろす。

あ、濡れたソファー。
別のにさ、変わってる。

『ケイ様、凄いですわ!なんて
素敵な サプライズでしょうか』

アサミがシャワーで居ない内に
いろいろ行われたのだと
思いつつ、リビングが
シアタールームみたいに
照明を落とされている事を
訝しむ。

ダイニングテーブル?

ケイと、マユと呼ばれた令嬢が
2人肩を並べて、テーブルを
見ているのを 見つけると。

早めにさ、出るべきだよ。
と思う。

「シャワー、お借りしました。
ご迷惑を、かけて すいません」

階段を降りながら、アサミは声を
かけて、とりあえず
自分の存在を示す。

テーブルを見ていた令嬢マユが、
アサミの声に 睨み捉えたら、
一瞬固まった気がした。

下へ降り、2人がいる
ダイニングテーブルに近寄る。

ティラミス?に、小人が 登ったり
降りたりするのが見え、、

マッピングマジックだ。よね。

令嬢の手土産にさ、わざわざさ、
マジックで喜ばせるんだよ。

テーブルを見つめるアサミに。

「服も乾いたな。アサミ本番だ」

ケイが、指を鳴らす。
ペントハウスの広いリビングが、
海の中に沈んで
天井から 壁、床面に 海が投影
される。

「これ、最初のプレス、
ショーの 、海? 」

走るような映像が、部屋を
船に変える。

「祖国の海だ。
キャンプアースで世界中を
廻ってもThe most beautifulだ」

投影される水面が
朝の光が煌めく海面、から
飛び魚が 群れなす 昼の海になると

ケイは眩しそうに、光景を
眺める。

そして、星降る夜海へなると
たちまち光の粒子が
床から吹き出し、壁から
天井へと充満する。

『バシュッ!!』

炸裂する破裂音とスモークから

白い鳥、ティカ達が室内を
飛び回って、アサミの肩に

ティカが留まった。

リビングが、ゆっくりと
部屋へと戻っていけば、
ケイが手に薔薇の花を持って
アサミの前に立っている。

「コンダクターは、明後日に。
それが Last tourだ、アサミ。」

ケイの後ろに、離れてるけどさ
こっちをジッ見ている 令嬢マユが
見えるけど。

それでも、もう観念しているよ
そう、
わたしは、好きになってる。

差し出された、5本の薔薇を
躊躇いながらさ、

頭に浮かんだのは
そんな 曖昧な気持ちと

明後日が Last tourだって
焦燥感だったんだよ。