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「もう!葵なんて知らない!」

私は帰りの車の中、頬を膨らませて葵を怒る。

「すみません、お嬢。」

謝る葵はニコニコしている。謝る気が感じられない。

「私の高二のスタート台無しなんですけど!」

「失礼ですが、お嬢はもともと友達もできませんし、スタートもクソもないように思うのですが。」

「うるさい!」

そんな掛け合いは日常で、運転手の若狭(わかさ)はげんなりとした顔をしている。
私は、張り合うのももう無駄だと思い、窓の外を見る。

家まではあと少し。
というか、そんなに遠くないのに、わざわざ車で送り迎えというのも変に思う。
けど、お父さんもお母さんも「詩織はこんなに可愛いんだから、狙われたら大変」という思考の持ち主、俗に言う親バカなので、歩きで登校なんてのは夢のまた夢だろうな…。
そもそも、私は可愛いから皆に見られるんじゃなくて、髪と目の色が珍しいから見られているのに…。
どうやらそれが伝わらないらしい。

ただ、まぁ…。

自分で言うのもなんだが、制服はよく似合ってると思う。黒のセーラーにプリーツスカート。そして、燃えるように真っ赤なタイ。結構気に入っている。

「あ、そうだお嬢。帰ってすぐ頭領のところに行ってください。話したいことがあるそうです。」

バックミラー越しに若狭が言った。

「あぁ、うん。わかった。」

どうせ、家族で制服の記念撮影だろうなと思う。
私は、やれやれとため息をついた。