「ここの角を左…そう、そこで車止めて。」

若狭は花房くんの指示に従い車のブレーキを踏んだ。
私達はドアを開け、車を降りる。

「ここって…廃ビル?」

「みたいですね。」

窓から見える寂れた繁華街。この街一帯が彼らの縄張りらしいが、特にここが『Winder』の本拠地らしい。

「…じゃ、仕事の内容はさっき言った通りらしいからよろしく。」

「了解。」

私と葵の声は重なった。

「お嬢、こういう危険な感じのこと、久しぶりですけど、体鈍ってませんか?」

「うーん、どうだろ?時々お父さんに稽古つけてもらってるし…大丈夫じゃないかな?」

「ま、無理だと思ったら呼んでくださいね。助けに行きますんで。」

葵の言葉は頼もしかった。

「うん。わかった。」

あ、でも──。

私はあることを思い、花房くんの方を向く。

「…花房くんってどれくらい強いの?この仕事に選ばれてるってことはきっと強いんだろうけど…。」

すると花房くんは何か考え事をしていたが、私の言葉に気づいて笑い、

「あぁ、どうだろ?昔から狙われることもあったし、護身術は一通り習ってるよ。」

と言った。そういえば神楽さんが初めに電話の時に『perfect crime』のメンバーは全員御曹司だって言ってた。
花房くんも私のように身代金の要求で人質とかにされたこともあるのだろうか。

「そっか。」

私はもう何も言わなかった。

「じゃ、開けるぞ。」

花房くんはそう言い、扉に手をかけた。