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どうも、七桜組に所属し始めて二年の『若狭秀樹(わかさひでき)』です。

七桜でも若い方だからまだドライバーという役割です。
でも、お嬢の命かかってる仕事なので、意外と大事な役割だったりします。

「おせぇな。七桜。」

確か、花房とかいうガキが言う。『perfect crime』の人間らしい。

「七桜の名前を軽々しく呼ばないでください。」

その横に立つ葵はさっきから花房に対してこんな調子。温厚な葵らしくない。
そういや、葵といえば、今日、同期の中島(なかしま)がなんか言ってたな。なんだったかなぁ…。

「え?そんくらいで怒る?」

俺がそんなことを考えてる間に話は進む。

「お嬢の名前ですからね。」

「…だる。」

俺の目が節穴なのかもしれないけど、何やかんや言いつつ、この二人、仲良さげに見える。
そのときお嬢の声が遠くから聞こえた。

「ごめんごめん!色々あって遅れたー!」

明るい声のお嬢だが、肩まである白髪はじっとりと濡れているし、膝上まで折られたスカートからはしずくがポタポタと垂れているのが遠目から見てもわかる。
…またイジメだろうか。

俺は、グローブボックスに常備しているタオルを取り出そうと扉を開ける。

「…大丈夫かよ。」「お嬢、大丈夫ですか?」

花房と葵の声が重なった。

「大丈夫だよ日常だし。
…あ、でも、葵は知ってるだろうけど、水かけられたのは久しぶりかな。まぁ、それでも他の組に人質にとられたこともあるし、それに比べたら…。」

お嬢の顔は見えなかったが、花が咲くようなあの笑顔に違いない。

お嬢は、昔からこんな環境だから、なかなか苦労しているそうだ。
しかし、持ち前の精神力と身体能力で意外と平気らしい。本人が言っていた。

…でも、俺はそうは思わない。お嬢だって、高校生。どこかで我慢してたりするんじゃないだろうか。

「はい、お嬢。」

俺はタオルをお嬢に渡す。

「ありがと。若狭。」

お嬢は、タオルを受け取った後、思い出したように慌てる。

「…って、私のことはいいから、早く車だそ!神楽さん…?待たせてるんだよね?」

「あ、あぁ。」

花房はお嬢の勢いに押されている。
全員その勢いに押されて、車に乗り込んだ。