「おはよ。七桜と、松浦。」

花房くんと目が合い挨拶される。
「おはよ。」私もそう言おうとした。したのだが。
葵の言うことが本当なら、花房くんも私のことを──。

……ダメダメ。
これが普通の男子高校生と女子高校生ならまだしも、私たちの場合、情報屋とヤクザ。

こういう付き合いにおいて、色恋沙汰に惑わされることは非常によろしくない。

…昨日ときめかされた私が言うのもなんだが。
でも、もう惑わされないもんね。

「おはよう。」

私は花房くんに挨拶する。

「…おはようございます。」

葵も挨拶したが、その口からは不服さが滲み出ていた。
花房くんと葵の間に何があったのかは知ったことじゃないが、なんか一触即発って感じで心配。

そんな私を他所に、「あ、そうだ。」花房くんが口を開く。

「今日、カグラホテル一階にあるカフェの『Olive』に来てよ。椿が話したいことがあるってさ。
…あ、予定あったりしない?」

それは、近くにいる私と葵にしか聞こえないくらいの音量だったと思う。
というか、話題の変え方がナチュラルすぎて、私はどもる。

「え、ない、けど…。」

本当は今日から部活再開らしいから部内でも好かれてるとは到底言えないけど、顔くらい出そうと思ってたのに…。
でも、優先順位を考えて、こちら優先だろう。

「ふぅん。じゃ、そういうことで。」

そう言う花房くんは廊下へ向かおうと席を立つ。そしておもむろに私の耳元で、


「──今日も一日、覚悟しとけよ。七桜。」


囁いた。
さっき、色恋沙汰に惑わされてはいけないと思ったばかりなのに、花房くんが出て行ったと同時に顔は急速に熱くなる。

「…お嬢?お嬢ー。」

葵が私の頬をぺちぺちと触る。
それに何も返せない私。そんな私に葵は、もう、とこぼし、

「安心してくださいね。
お嬢に近づく悪い男は俺が成敗しますから、お嬢はいつも通り過ごしていてください。

──どうか、俺以外の人になびかないでくださいね。」

と言った。

……葵も、花房くんも。私の心臓のキャパ少ないの知ってから出直してきて。

じゃないともたない。