混乱、困惑、狼狽、パニック…。

学校についてもなお、脳内はそんな言葉でずっと埋め尽くされていた。

「お嬢?大丈夫ですか?」

「…大丈夫に見える?」

教室まで向かう中、隣に立つ葵とそんな会話を交わす。

「見えないから、聞いてるんです。何かあったんですか?」

…いや、何かあったも何も、原因はアンタじゃん。

いつもなら、そう口に出して言っていただろう。
葵は幼馴染で、言いたいことも聞きたいことも何でも口にできる中だから。
しかし、今日はそれがうまく出来ない。

何てったって、葵は私のことが好きらしいし、昨晩は耳にキスまでされた。

それを知って普段通りに接しろなんて無理な話だ。

「ナイショ。葵には関係ない。」

平然を装い言ったが、全然平然じゃない。
昨日を思い出して、きっと真っ赤になった頬は葵にもバレているはず。
ごめんね。こんなカッコつかない(あるじ)で。

「…そうですか。お嬢が言いたくないなら、別にいいですけど。頼ってくださいよ?たまには。」

そう言ってくる葵の顔はいつも通りで、昨日のことなんて全部嘘で夢だったんじゃないかと思える。

しかし、全部現実だったのだと次の瞬間気付かされた。

「にしても、お嬢は、ほんっと寝たふり下手くそですよね。」

「……へ?」

私は素っ頓狂な声を上げる。
そんな私を見て、葵はクスクスと笑い、

「今日元気がないの、もしかして、昨晩のこと、少しでも気にしてくれてるんですか?期待しちゃいますよ?俺。」

私はついつい黙り込む。
こういう時、何を返せば正解なのかまったくわからないから。

とりあえず、目の前の教室のドアを開けた。