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寝たふりが下手なの、昔も今も変わんないんだなぁ…。

自分の部屋に戻りながら、クスリと笑うのは、俺、松浦葵だ。

詩織とは、5歳からの付き合いになる。七桜組に松浦組が収束されたときから。

初めは、七桜組の人間から松浦組の人間として陰口を叩かれたものだが、ずっと詩織は味方でいてくれた。
そのときから彼女のことが好きだった。

そこから血の滲むような努力の末、詩織のお付きという役柄を手に入れた。
その毎日は幸せに満ちていたが、その幸せこそが彼女に対する独占欲に火をつけている。

詩織には、知らぬ間に人を惹きつける魅力がある。
だからこそ、友達が出来ないように、あわよくばイジメられるような噂を流した。
彼女に悪い虫がつかないために。イジメに傷つく彼女を僕のものにするために…。

まぁ、詩織はイジメに対して殆ど何も思っていなさそうだけど。

あとは、強い女の子と思われるような話をしたこともあったな。
彼女の弱い一面は僕だけが知っていればいいと思っているから。

ここまでしても、まだ満足していない僕はもしかしたら強情なのかもしれないな。

…にしても、花房優斗だ。
組織のことを考えても、表沙汰に潰すわけにはいかない。
それなら、お嬢の方から責めていくのが得策だと思い、今日の行動に踏み出たのだが…。

果たして、それが吉と出るか凶と出るか…。
それでも二人が付き合うことになりそうなら、手荒な真似も視野に入れておくことにしよう。

中庭を通過するときに見えた満月は、大きく、そして、仄かに辺りを照らしていた。