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夕方。私は家の電話と睨めっこ。
隣には葵。

「ねぇ、葵。」

「なんですか?」

「別にいなくてもいいんだよ?」

「いえ、少し花房くんとお話がしたいので。」

「?ふぅん…。」

そんな会話を交わす。
つまらないから、中庭の池の方に目を向けると、お父さんが鯉に餌を与えているのが見えた。
私もお腹すいたなぁ…。葵に頼んで、昨日食べ損ねた桜餅取ってきてもらおうかなぁ…。
そんなことを考え、葵の方をもう一度見たときだった。

「詩織。」

音も立てずにお母さんが後ろに立っていた。

「びっくりしたぁ…。どうしたの?お母さん?」

私の言葉に間髪入れずお母さんは口を開く。

「情報屋入りなさい。」

「…え?」

朝は、貴方がいいのなら。って感じだったのに…。
命令形?

「事情は詳しく言えない。とにかく何がなんでも、入りなさい。」

小さい頃の私なら、それこそ、「うん、わかった」の二つ返事で了承していたことだろう。
でも、今はもう違う。次期組長としての自覚というやつがじわじわと育ってきていた。
流石に少なくとも理由を聞かないと納得できない。

「…ねぇ、私だって七桜の一員だよ?少しくらい教えてくれたっていいじゃない。」

「…ごめんなさい。できないの。」

お母さんは悲しそうに下唇を噛み締めていた。
そんな顔されると私は何も言えなかった。

静寂が流れたそのときだった。
私の目の前にある電話がけたたましく鳴り響いたのは。

急いで私は受話器を取る。

「はい、こちら七桜。」

「こんにちは。詩織ちゃん、だよね?『perfect crime』、リーダーの『神楽椿』です。」

受話器越しに落ち着いた声が聞こえる。
声から察するに、多分、昨日椅子に座っていた男だろう。あの人が、『神楽椿』さん。覚えておこう。
にしても、いきなり、詩織ちゃん、か…。
なんか、チャラそうな印象受けるなぁ…。

「今日は詩織ちゃんに昨日言われた通り、色々説明しようと思う。少し長くなると思うけど、よく聞いててね。俺、同じ話二回するの嫌いだから。」

そう前置き、神楽さんは話し始めた。