あとは、
「……」
斜め前に座っている瀬川さんを眺める。
それから帰るまで、彼女が言葉を発することは一度もなかった。
瀬川さんは学部で特別目立つ生徒ではなかった。それなのに彼女が記憶に残っていたのはどうしてだろう。
色白でショートカットな彼女はどこかボーイッシュな印象を受ける。だけど仕草や行動までもが男っぽいというわけでもない。
どこにでもいるような普通の女の子で、普通の生徒だった。
「結局サークル入れたのか?」
次の講義が始まるまでの間、そう話しかけてきた武文に「うん」と、
「サークルの人いい人そうでさ」
「良かったな。友達出来そうか?」
「友達は……」
榊さんは友達……ではないよな、先輩だし。
じゃあ瀬川さん……?
あの日の彼女の態度を思い出し、それはないかと一人首を横に振る。
「友達作りに行ってるわけじゃないし」
「いつ行くんだ? 今日は?」
「今日は榊さん……代表の人がカメラ教えてくれるって言うから顔出すつもり」
「いきなりだな、頑張れよ」
一体何を頑張るんだ、秋生の言葉に一瞬考えこんでしまった。