「賞を獲ったよって言ったら、凄く喜んでた」
それだけでよかったんだ、と彼女は言った。
身近な人が笑顔になってくれる。
それだけで、よかったんだ。
誰にも認められなくても好きな人の喜ぶ顔が見れるだけで、よかった。
強めに吹いた風が桜の木をザザッと揺らす。同時に桜吹雪が起こり、僕たち二人を柔らかく包み込んだ。
春の風に揺れる瀬川さんは、やはり綺麗だった。
あぁ、だから……だから僕は……
「(君のことが好きなのか)」
彼女について知っていることは少ない。家族構成も好きな食べ物も、何も知らない。
それでもこうして惹かれてしまうのは、僕にとって彼女が何よりも清らかで綺麗に思えるから。
「ねぇ、瀬川さん……」
まだ、間に合うのかな。
「来週も、またここで」
君に会いたい。
彼女が頷いてくれたのを見て、僕からも笑みが生まれた。
いつだって自信はなかった。君に隣に並ぶなんて烏滸がましいとさえ思っていた。
だけど、信じてみてもいいのかな。君が、もう一度僕に会いたいって思ってくれていると。
君も僕も同じ気持ちなんだって、自惚れてもいいのかな。
君と僕は赤の他人。
だけど運命の人。

