あまりにも自分勝手だと思う。それでも彼女に名前を呼ばれて嬉しく思う気持ちが止められなくなる。
それと同時に確信した。僕はまだ、彼女への気持ちを忘れられていないことに。

僕はまだ瀬川さんのことが好きだ。


「久しぶり、だね。大学卒業して以来?」

「……うん」

「……」


彼女の顔が見れない。ずっと背中を向けて返事をする僕に瀬川さんが呆れているんじゃないかという被害妄想までしてしまう。
だけど彼女の口から聞こえてきたのは、予想外の言葉で……


「私、カメラ続けてるよ」

「……え?」

「やっとこっち見た」


咄嗟に振り返ると目が合った彼女が微笑む。昔と変わらず少し下手くそな笑い方だったけど、だけど何処か昔の冷たい印象は薄くなっている。
瀬川さんの手には確かに一眼レフが握られていて、それも少し年季が入っているように思えた。


「今度、小さいんだけど個展を開くことになったんだ」

「個展って……」

「うん、写真の」

「……」


どうして……