にゃーんとか細い猫の鳴き声が聞こえて振り返る。すると一眼レフを首から下げた女性がその場にしゃがみ込み、擦り寄ってきた野良猫を優しく撫でている景色が目に入った。
短く、淡い茶色をした髪型に見覚えがあり、一瞬「まさか」と身体が強張る。
「どこから来たの……て、もう行っちゃうんだ」
彼女の傍を離れると草むらを抜けていく野良猫。それに軽く手を振っていた女性が腰を上げ、そしてこちらへと顔を向けた。
本当は声だけでも彼女だと分かっていた。彼女の存在自体に気持ちを引き寄せられる、そんな感情を自覚していたから。
だけど本当に彼女が今目の前にいるのか、全然現実味がなくて……
「……」
大学を卒業して三年、変わらぬ姿の瀬川さんが目の前に立っていた。
久しぶりにその姿を見た彼女に一瞬見惚れていたが直ぐに視線を逸らすと背中を向ける。
会いたいと思っていた。だけど実際に会ったら、彼女に何を言えばいいのか分からない。
こちらの存在などとうの昔に忘れているかもしれない。
だからここは何も告げず、この場を去ろうと脚を進める。
と、
「荒木くん?」
「っ……」
「荒木くん、だよね」
耳を疑った。彼女の口から出てきたのは間違いなく僕の言葉だった。
瀬川さんは僕のことを、覚えていたんだ。
「(なんで……)」