パシャリと一眼レフの独特なシャッター音が鳴る。
写真を撮ることよりもこの時の音と感触にハマっていると言っても過言ではない。
満開に咲き誇る桜の木を見上げながらはぁとゆっくりと息を吐き出す。
「(穴場かもな……)」
お花見シーズンということもあり、どこの公園も花見を楽しむ団体客で埋め尽くされているはず。
しかし少し都市から離れた実家の近くの公園の桜の木は満開でも辺りに人気は少なく、独り占め出来ているような気分で優越感に浸れた。
桜を見ると三回生の春のことを思い出す。サークルのことを思い出しては部室に向かう脚を引き返してしまっていたこと。
きっと新しい部員を勧誘しないとサークルは潰れると分かっていても、僕にはそれをどうにかする力も、勇気もなかった。
きっと彼女は僕のそんないい加減な行動に今でも怒っているはず。
いや、もう僕のことなんて忘れているか。
『私、写真撮るの辞めようかな』
もし、もう一度出会えたなら。彼女に何かを伝えることが出来たら。
何を言えばいいのかな。
「……あ、」
視界に白い固まりが目に入った。ぴょこんと生えた耳と伸びる細い尻尾。少し茶色の斑が入った子猫が目の前を通り過ぎていく。
突然の出来事でカメラを構えることも出来ず、その猫の行く末を見守ることしか出来なかった。もしかしたらこの辺は野良猫が多いのかもしれない。散歩のついでに探してみるのもありか。
そう、踵を返したのと同じタイミングで声が届いた。
「なに、お前。可愛いね」