線香の独特の香りが部屋に広がる、静かに手を合わせて目を瞑ると心の中で写真越しに見える祖母に語り掛けた。
実家の仏壇に飾られている祖父母の遺影の隣には学生の頃に使用していた一眼レフが添えられていた。
三回生の途中、中のバッテリーの充電が出来なくなり、取り寄せることも考えたが古い型だったこともあり、同じバッテリーはもう売られていないことを知った。
それからは当時発売された最新型の一眼レフを取り寄せ、今でも使用している。
「あら、久しぶりに返ってきたのに出掛けるの?」
「うん、ちょっと散歩してくる」
「おばあちゃんに挨拶した?」
「したよ」
玄関先で母に見送られると春の心地よい気温の中を歩いていった。
あの日からサークルに戻ることはなくなったが、それでも写真は撮り続けていた。
相変わらず見せる相手は祖母しかいなかったが、彼女が持病の悪化で入院することになった時は自作でアルバムを作って病室に持っていった。
祖母はいつも優しい目で撮影した写真を褒めてくれていた。そのことがコンクールなどで賞を獲るよりも嬉しかった。
祖母が祖父の元へと行ってからは写真を見せる相手もいなくなり、興味本位でSNSを初めてみた。
休日に出掛けて撮った写真をアップするアカウントを作り投稿していると、一年経過する頃には約三千人ほどのフォロワーがいる状態となっていた。
心のどこかでアカウントを通して彼女と出会えるのではないかと思っていた。
しかしその願いは叶うことはなかった。
瀬川さんのSNSアカウントは投稿されていた写真を含め、知らない間に削除されていた。