でも、
「だけど、僕は知ってた。あの写真が瀬川さんのものだって」
「……」
「ちゃんと伝わってる。瀬川さんを知っている人ならあの作品は君のだって」
だから写真を撮ることを辞めるなんて口にしないでほしい。君のその才能を、こんなところで終らせないでほしい。
君が撮る写真に映るものは全て写真越しに息吹いているのが伝わってくる。生命を感じる。きっと瀬川さんの呼吸でもあるんだ。
瀬川さんにとって大切なことを辞める必要なんてないのに。
それなのに、僕には彼女を説得させる言葉を持っていない。
「私、は……」
「……」
「……ごめんなさい、私はもう」
触らないで、覗かないで。
傷付いている彼女を前にして、僕は無力だった。
今年初めて雪が降った日、なにも話さなくなった瀬川さんの背中を、ただ黙って見送ることしか出来なかった。
あの冬の日が、僕と瀬川さんの最後の会話になるとも知らずに。