「立川、いい加減にしてくれ。もうここを去ったお前に見せるものは何もないよ」

「……」


諭すようにそう言った榊さんの言葉に立川さんははあと呆れたように溜息を吐いた。


「はいはい、だけどどうして結が怒ってんの? あの子が怒るならまだしも」

「天は怒ってるんじゃない。悲しんでいるんだ。だから代わりに俺が怒ってる」

「……今更謝られても困るでしょ」


殺伐とした空気が流れ、ただその場に立ち尽くしていると立川さんが不意にこちらを向いた。
そして「じゃあ私帰るね。もう二度と会えないと思うけどまた」と笑って何事もなかったように部室を出て行ってしまった。

扉の閉まる音が部屋に響く。暫くして榊さんがゆっくりと口を開いた。


「ごめんな、なんか重い空気にしちゃって。とりあえず天に戻ってくるように連絡を……」

「榊さん」

「うん?」


彼の言葉を遮るように名前を呼んだ。ずっと気になっていたことが沢山ある。
公認サークルなのに実際に活動している学生が少ないこと、瀬川さんのSNSアカウントに投稿されている写真を見た時の違和感、そして初めて立川さんに会って感じた戸惑い。

これが自分の推測であってほしいとさえ思ってしまう。


「このサークルに入る前、学部の廊下に飾られていたコンクールの写真を見たって話、しましたよね」

「あぁ、確かそうだったね」

「あれって、本当に……さっきの人が撮影したものなんですか?」

「……」


榊さんが不意に窓の外へ視線を向ける。
いつの間にか外では白い雪が降り始めていた。