「(って、それは僕はそう思いたいだけなのかもしれない……)」


僕はどうやってもあの写真の人には近付けないのに。


「その子は新しく入ってきた荒木くん。そんなことより何か用か?」

「何か用かって、なんか冷たくない? 一応年末の挨拶にきてあげたのに」


普段は誰に対しても優し気な空気を醸し出す榊さんだが、立川さんに対して放たれる言葉は少し冷たく思えた。
すると立川さんは次第に彼の隣に立っている瀬川さんの存在に気が付いた。


「あれ、もしかして瀬川さん? マフラーで顔隠れているから誰だか分らなかったー」

「っ……」


彼女に話しかけられた瞬間、瀬川さんの身体がビクリと反応した。まるで硬直したかのように緊張しているのか伝わってくる。
と次の瞬間、瀬川さんは自身の鞄をひったくるように持つと飛び出すように部室を出て行ってしまった。


「わっ、吃驚したー。なんか急ぎの用事でもあったのかな?」

「……立川」

「もう、結も怖い顔してどうしたの。あ、そうだー。荒木くんってどういう写真撮るの? 見せて見せてー」

「おい、もうやめろ立川」


何故瀬川さんが彼女に話しかけられた瞬間出て行ってしまったのか。
目の前にいる女性は本当にあの“立川妃乃”さんなのか。

この人が現れてから色々なことが頭の中で起こって整理が付かない。
ただ分かるのは、この立川さんって人は何故だか信用ならない。

あぁ、もしかして僕がずっと杞憂だと思っていたのは全部、“事実”だったのかもしれない。