彼女のことは何も知れない。私生活も、家族構成も。好きな食べ物は何なのか、カメラの他にも趣味はあるのか。
榊さんとは従兄妹だけど、本当にそれだけなのか。
「24日にさ」
「え?」
「部室でクリスマス会するって榊さんが」
あの人卒論終わってるのかな、と言葉を漏らした彼女。まさか向こうから会話を切り出してくるとは思っていなかった。
というか今更だけど、従兄妹なのに榊さんの呼び方が随分と他人行儀だ。それだけ彼と血縁関係であることを知られたくないのかもしれない。
「クリスマス会って、人来る?」
「あー、うん。結構。こういう時に限ってみんな集まる」
「……ちょっと居づらいかな」
まだ顔を合わせている人も数少ない。その為、参加しても馴染めない可能性の方が高いだろう。
するとそれを聞いた彼女が珍しく吹き出すように笑った。
「分かる、なんかその感じ」
「っ……」
彼女の笑顔は斜め後ろからでしか確認出来なかった。だけど心を擽られるようなへたくそな笑い方だった。
普段友人に囲まれている時の瀬川さんには話しかけづらいけれど、こうして同じものを苦手だと笑ってくれる彼女の人間性には惹かれるものがあった。
最初に話した時から、いやその前から。大学に入って瀬川さんのことを初めて見た時から、何処か自分と似ているんじゃないかと思うことが多々あった。
カメラが好きなこと、人と接するのが苦手なこと。自身が持つ空気感も。
「(なんて烏滸がましいよな……)」
一緒なんて……
エレベーターが一階に着いて扉が開く。それじゃあと軽く挨拶をして降りて行った彼女の背中を目だけで見送った。
学部を出てイルミネーションの中を歩いてく瀬川さん。その隣に並ぶ勇気は今の自分には持ち合わせていなかった。