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「で、それが前に言ってたカメラってやつ?」


大学での昼休み、手にしていた一眼を見た武文が興味深そうに眺めてくる。


「うん、でもまだ使い方良く分からなくて。古い型だからか調べても詳しく出てこないんだ」

「だけど一眼レフって難しいんだろう。よく手を出したな」

「……まあ」


興味あったからね、と答えるともう一人の友人である秋生が「ふーん」と意識を自身のスマホに戻した。
武文と秋生の二人は僕と同じ学部学科に通う男の友人であり、大学のいる間はほとんどの行動を共にしている。

体格の大きい武文に対し、ガリガリに痩せている秋生のミスマッチ感はいつ見ても慣れないが、この二人といる時間は居心地のいいものだった。
大学生と言っても実家暮らしでバイトもしていない為、家と大学を行き来するだけで他の楽しみがなかった。だけどカメラを持つことで通学時間など、ふとした瞬間にカメラを構えるだけで今まで平凡だと思っていた毎日が作品を切り抜いたみたいに特別なものになる。


「まだ勉強中なんだけど……」

「ふーん。そういえばうちの大学って写真サークルあるよな」

「は? そんなのあったか?」

「うちの学部の廊下に一時期コンクールのやつ張り出されてただろう」


二人の会話を聞いてカメラのストラップ部分を撫でていた指が止まった。
秋生の言葉に武文は「そうだっけ?」と興味なさそうに返事する。


「じゃあ麗もサークル入ればいいじゃん」

「そんな簡単に言われても……」

「だけどカメラ詳しい人に教わった方が上達するんじゃないか?」

「……」


二人の言い分は確かだった。バイトもしていない今ならサークルに入る時間だって取れるはずだ。
行動に移さなかったのは頭のどこかにそれを拒む理由があったから。

昔、学部の廊下で見た一枚の写真。県のコンクールで最優秀賞を受賞したというその作品は空気が澄んだ田舎で撮影されたものだった。
麦畑で被写体の女性が夕陽を背にして微笑んでいる写真。それを初めて見た瞬間、時間止まったかのようにその場から動けなくなった。

あの女の人が誰なのか。サークルに行くのはそれを突き止めるみたいで嫌だった。
だけどこのカメラを手にした瞬間、そんな迷いはとうの昔に消えていたような気がする。