「まあ、あんなことがあったら心開かなくなるのも当然か」

「え?」


彼がぼそりと小さく呟いた言葉に反応すると榊さんは「何でもない」とスマホを自分のジャケットの中に直した。


「それにしても、荒木くんの写真は風景が多いな。人とかは撮らないの?」

「人は許可を取らないと駄目なので。そういう人は周りにはいないですね」

「……なんかごめん」


一度武文と秋生に交渉してみたのだが二人とも写真に何かトラウマでも抱えているのか、どうしても撮らせてくれなかった。
しかしPCの画面に映っている写真を見て、彼は自然と目を細めた。


「でも、なんか似てるな……」

「……もしかして」

「え?」


そう言って視線を向けると、至近距離で彼の驚いた目と目が合った。
珍しく動揺で揺れている瞳に眼鏡をかけた自分の姿が映る。


「いや、少し感銘を受けた人がいるので。それでその人に寄せてしまっているのかもしれないです」

「……ちなみにだれか聞いてもいい?」

「……」


いつか聞こうと思っていた。だってもう一ヵ月半この部室に脚を運んでいるというのに、その人は現れてくれないからだ。
きっと榊さんならその人のことを知っているはずだ。