クリスティーンとナカさんの言葉におユキちゃんはコクコクと頷いた。ナカさんは腕組みをしながらしばらく考える風だったが、
「これはアレやな。ミケ太猫又説、やな」
「ねこまた?」
 クリスティーンの疑問にナカさんが答えていく。
 猫又。それは日本古来より伝わる猫の妖怪である。長い寿命を生き延びた猫のみが猫又となり、人語を解したり、話したりすると言うものだ。猫又の見分け方として代表的なものは、尻尾である。猫又の尻尾は二つに分かれていると言われている。
「これやったら、ミケ太が扉を閉めることも、普段からおとなしく俺たちから触られてるのも、納得やろ?」
「……! お店の名前がねこまたなのは……!」
「それや! ミケ太のことやで、きっと!」
 ナカさんとクリスティーンが猫又の話で盛り上がっている。おユキちゃんも何かを考えるようで、今回の奇妙な出来事を振り返っている。
「お店の名前に、ミケ太の妙な行動……。確かにナカさんの話は筋が通っていますわ……」
 おユキちゃんが納得していると、奥からミケ太を抱えた作太郎がやって来た。三人の視線が一斉にミケ太の尻尾に集まるが、
「み、見えない……」
 ミケ太は上手に作太郎の腕の中にその尻尾を隠してしまっている。作太郎にはそんな三人が何故落胆しているのか分からない。疑問符を頭に浮かべながらにこにこしている。
 そんな作太郎の様子に女性二人はばっとナカさんを見る。その二人の視線は無言でナカさんにミケ太のことを聞くようの圧力をかけている。
「お、俺……?」
 ナカさんは戸惑った様子で自分を指さす。女性二人はそんなナカさんへうんうんと大きく頷いている。二人の視線の圧力に、ナカさんは一度だけ深呼吸をすると、
「なぁ、サクさんよ」
「なんだい? ナカさん」
「その……、ミケ太は猫又なん?」
「……」
「……」
「……、何だって?」
 たっぷりの間の後、作太郎は笑顔を貼り付かせたまま言う。その反応は三人を震え上がらせた。
「下手くそかっ! 誤魔化しになってないわっ!」
 そしてナカさんにそう言わせるのに十分だった。
「はぁ~……」
 すると聞いたことのない声のため息が聞こえてきた。三人の視線は再び作太郎の腕の中にいるミケ太へ集中する。
「お前、本当に嘘をつけないな、作太郎よ」
 少し甲高い少年のような声は、確かに作太郎に抱かれているミケ太の方からする。三人がミケ太に注目していると、その口が動いた。