試し切りの場所として選ばれたのはフォールクラウンから徒歩一日ほど離れた荒野だった。
 確かにここなら誰の迷惑もかけずに試せそうだ。
 今回の試し切りの相手はダハーカになる。

 俺とダハーカが対峙する場所からざっと50m離れた場所にドワルにドルフ、ティア達が居た。
 ドワルとドルフ達も兵士達に守られる形で俺達を見ている。
 ティア達はさっきからずっと呆けている。
 どうやらリルやカリン、アオイが伝説の魔物である事をさっき知ったのでどうも混乱しているらしい。

「そっちの準備は良いかー!」
「こっちは大丈夫だー!それより被害は最小限でなー!」
「分かったー!」
 かなり離れてはいるので大声でのやり取りをした後俺はダハーカと向き合う。
 そして出来たばかりの蒼流を抜き、正眼で構える。

「それじゃ相手よろしくなダハーカ」
「ああ、とても楽しみだ」
 ダハーカも顔をにやけさせながら拳を構え、人化の術を解除した。
 遠くから驚きの声が上がるが言い訳する時間がない。
 後で言っておかないとな。
 六つの目で見るダハーカとの試合が始まった。

 先攻はダハーカ、五桁の魔術をいきなり使ってきた!
 俺は自身に対魔術用の付加術を掛けながら蒼流で魔術を切り裂く。
 ドワルから学んだ円運動を基本とし、きれいな円を描きながら俺に降りかかる魔術を捌き続ける。
 全て捌いてもまだダハーカは本気を出してない、軽い運動でこれだから本当に驚かされる。

『そのぐらいは出来て当然か』
「それより周りに被害が出ないようにちゃんと調整したんだろうな」
『前回は私一人対複数だったが今回は完全な一対一の戦い。魔術を無駄な所に撃つつもりはない』
「あ、そっか」
 前回の敵は俺一人じゃなく龍皇国の皆もいた。
 って事は何か、あの魔術の一部は俺じゃなくて別な所に撃ってたって事?

「マジで化け物だな」
『その化け物に勝った者も十分化け物だと思うがな』
 それなら嬉しいね。
 ダハーカ同様強い奴と戦うには楽しいんだ、まだまだこの世に俺より強い奴はいる。
 まだ見ぬそいつ等に勝てる様、精進しないとな。

 次は俺から仕掛けた。
 蒼流に魔力を流し、力を籠める。
 その際蒼流に変化があった、まだ覇気で覆っていないのに蒼い炎のようなものが刀身を纏う。
 てっきりロウの様になるとばかり思っていたが違った。
 そこに覇気を纏わせると青い炎は穏やかな川の流れの様に静かに、しかし力強い気配があった。

 そして俺は全スキルを使用してダハーカに切りかかる。
 ダハーカも拳で応戦してきたがその拳を避け、一太刀入れた。
 すると切った切口に炎が移った。
 さらにその炎がダハーカの眷属を召喚するのを阻んでいる。

『ほう、これがティアマトの爪で作った刀の効果か』
 ダハーカは自身に移った炎を払う様に鎮火されるとそこには酷い火傷の跡がはっきりと残っていた。
 おそらく蒼流は切ると焼くを同時にこなす刀、ダハーカの眷属召喚方法は何かの媒体に血が付着しないと召喚できないと言うデメリットがある。
 蒼流はそのデメリットを上手く衝いた様だ。

「切ると焼くを同時にこなす刀か。体液や血そのものが毒だったりする類には効果てきめんだな」
『名を炎に関した名に変えた方が良いと思うが?』
「ヤダよ、すでに愛着あるんだから」
『そうか。それは無粋な事言ったな』
 本当だよ。

 そして戦闘再開、ダハーカは水系の魔術で攻めてくるが蒼流の炎は消えない。
 おそらく俺が手にしている間は魔力を吸収しているため水に濡れた程度では簡単に水を蒸発してしまう。
 しかし炎の威力を上げると魔力の消費量も当然上がるのでそこは注意が必要か。
 そして今回は俺が負けた。
 敗因は蒼流に魔力を流しすぎた魔力切れだ。
 前回はそれが原因でダハーカは負けたが奇しくも同じ理由で俺が負けた。

「あ~疲れた」
「殺し合いではなかったがこう言うただの喧嘩も良いものだ」
 すでに人化して普段のイケメンに戻ったダハーカが手を出してくれる。
 俺はその手に掴まり起き上がった。
 後は二人並んでドワル達の方へ戻る。

「ただいま~」
 ふらふらと帰るとリルが狼の状態で出迎えてくれた後、俺を包むように丸くなってくれた。
 この柔らかい体毛が俺を癒してくれる。
 さらにカリンとオウカも獣状態で俺にくっ付いて来たためさらに癒される。
 アオイはよく冷えた水をコップに入れて持って来てくれた。
 至れり尽くせりとはまさにこの事か。

「リュウよ、少し暴れ過ぎではないか?」
 兵士達が居るせいか威厳ある話し方で言ってくるドワル。
 ドワルは戦闘後の光景を見てちょっと引いている。

 ダハーカの結界は円柱状になっているため戦闘後の跡も円状になっているが一部ガラスの様になっていたりする。
 原因は蒼流で熱し過ぎた地面にダハーカが水の魔術をぶっかけたせい、急激に温められた地面は水によって急速に冷やされ、妙に光った地面ができた。
 他にも色々あるが一番はきっと俺が実験としてやった蒼流の特大炎だと思う。
 調子乗って限界まで溜めた魔力を全て蒼流に流して炎に変えるととんでもない火柱が出来た。
 しかもその攻撃は流石のダハーカもヤバいと避けたので勢い余って地面に当たった際にあわや結界が崩壊するかも知れない程の威力だった。
 ちなみに俺は蒼流を持っていたせいなのか、覇気のおかげなのか炎でのダメージはない。
 ダハーカは全力で守っていたが所々火傷は負っていた。

「兵士達の顔を見たか?さらにリュウへの警戒心が高まったぞ」
「なら伝えといて、怒らせなければ何もしないって」
「リュウ殿!この試合跡を記録しても構いませんか!」
「いいよ!」
「ありがとうございます!」
 ドルフは研究者魂なのか怖がる所か好奇心満々で試合跡に向かって行く。
 そしてその後を追う魔術師達も同じ類の人間なんだろう。

「リュウ、あれって全力?」
 さっきからずっと呆けていたティアがようやく口を開いた。

「全力ではあったけど……本気でもなかったな」
「本気じゃない?」
「そりゃ魔力をほぼ全部使ったから全力ではあるけど、本気だったらあんな派手な攻撃じゃなく確実に殺せる一太刀を入れるぞ」
「そうだな。前回の殺しに来た際の気迫も無かったからな」
 ダハーカも水分を補給しながら話に割り込む。
 だって俺ダチに殺気ぶつける程冷徹じゃないぞ。

「………嘘。あのレベルで、本気じゃないって」
「リュウ、君は一体どこまで強くなるつもりなんだ?」
「さあ?とりあえず仲間を守れるぐらいが第一目標だからな……」
 元々強い皆を守れるようになるにはそりゃかなり強くならないと守れないでしょ?
 そう言うとティアとタイガは呆れた様にため息をついた。

「なあリュウ、俺にそのカタナを見せてくれないか?」
「いいよ。ほい」
 グランさんが遠慮がちに聞いて来たので手渡した。
 すると蒼流から何か不穏な気配がする。

「これがドワーフの王が作ったカタナか……」
 まずは外見をじろじろ見ているグランさんにマリアさんやゲンさん、アリスも見始めたが何か嫌な感じがどんどん上がってくる。
 まるで蒼流が嫌がっている様な、拒絶する気配と言うか。
 そしてグランさんが刀身を見ようと少し刀を抜いた時に事故は起きた。

「がっ‼」
 突然グランさんが倒れた!
 俺は慌てて蒼流が落ちる前に取ったがグランさんはゲンさんにぐったりと寄り掛かって動かない!

「な、何が起こった!」
「ちょっと診せて!……これって酷い魔力欠乏症じゃない!」
 魔力欠乏症とは主に子供が慣れない魔術の行使によって起こる魔力切れだ。
 さっきの俺達の様に疲れたなどで加減が分かっていれば問題ないのだが、子供の内は加減が分からず使いすぎると起こる症状だ。
 ただ問題は何故急にそれが起こったかだ。
 と言っても原因は分かっているが……

「……そんなに嫌だったのか、蒼流」
 多分蒼流の仕業だ。
 俺以外に抜かれるのを嫌がった結果が魔力の欠乏を起こすほど魔力を奪ったのだろう。
 今も蒼流は怒って俺の魔力を奪っている。

 つまりこいつは完全に俺専用で、俺以外が触れば牙、いや爪を食い込ませる妖刀だと言う事が皮肉にも分かった。