「それでは作戦会議を始めます」
夜、女子部屋のリビングで勇者パーティーとアリスさんを交えて相談する事にした。
「今回は私とリュウの決闘について相談したいと思います」
「決闘も何も話し合いでどうにかならないのか?」
「そうよティアちゃん。さすがに今回のは急過ぎるし、リュウちゃんの話だって分かるでしょ」
「分かりますけど……」
それは分かる。
けどせっかく危険のない生活に戻れるのだから戻った方が良いと私は思う。
この勇者と言う職になってから今まで何度も危険な目にあった。
様々な魔物と戦っていれば自然と命の危険はやってくる。
そんな世界から抜け出せるなら抜け出した方が幸せになれるはずだ。
確かに急なのは分かってる。
でもリュウには少しでも早くこの世界から抜け出して欲しい。
それなのにリュウは!
「だからってあんな言い方じゃなくてもいいじゃないですか。何よ、好きでやってるって」
「ティア、あんなリュウは昔みたいに殴ればいいんだよ」
「でも手加減はしないと……」
戦闘系の職についてる人と、ついていない人の差はとても大きい。
もし私が思いっきり殴ったらリュウを殺しちゃう事だって……あれ?
そう言えば私がリュウに抱き着いた時って思いっきりだったはず。
でもリュウは何て事無く受け止めていた。
「手加減どころが本気でやらないと負けるのはお嬢ちゃんの方だと俺は思うけどな」
ゲンさんが言ってきた。
私の方が負ける?普通に考えればそれはない。
でも、もしもあの時本当に難なく受け止めていたとすれば話は違ってくる。
「ゲンさんそれは流石に無いですよ。ティアが、勇者が調教師に負けるなんて」
「普通ならな。しかしあのリュウって調教師は普通じゃない。グラン、本当にたった一人の人間が何の実力も無くあの森を生き抜けると思えるか?」
「無理、だろうな。どれ程の魔獣とつるんでたかは知らないが普通は死ぬ。しかし調教師があの森を生き抜くだけの力を持てるとも思えない」
「そうだな、ならこれを見てくれ。最初に言っておくがこれは加工していない映像だ」
「……それ本当に見せちゃうんですか隊長」
「本人が良いって言ったんだ、問題ない」
アリスさんが何か不安そうに言ったがゲンさんは記録用の水晶をテーブルの真ん中に置いた。
そこに映し出されたのはリュウと知らない綺麗な女性だ。
恐らくメイドだろうか?メイド服を着た女性とリュウが拳を構えている。
すると突然激闘が始まった。
拳と拳がぶつかる度に衝撃が走り吹き飛ぶ。
その直接殴り合っているであろう腕と脚の動きは見えず、全てはっきりとは見えない。
ただ分かるのはあれは別次元の戦いだという事だけだ。
これを直接見たゲンさんとアリスさん以外は茫然として見ていた。
数分が経過した時には辺りは強い踏み込みで出来たのか、あちこちに足跡が出来ていた。
「これがあの森で生き抜いたリュウの実力だ」
「ちょっと、ちょっと待って下さい‼これが今のリュウの実力!?しかもあの女性は一体?」
「あの女性はアオイと言う名前でリュウの従魔だ。恐らくだがかなり名のある魔物だと俺は予想している」
タイガが今の私達の心情を代弁してくれた。
「魔物?しかも強い魔物がどうしてリュウの従魔に」
「簡単だ。リュウはあの魔物に勝った。それだけだろう」
訳が分からない。
およそ半年前まで普通の調教師だったはずのリュウがいきなりこれ程の力を持っている事もだし。
何より魔物と一緒に笑っている姿が目の前にあるのに信じられない。
戦闘後の映像なのかリュウの周りに様々な魔物だと思われる動物達が寄ってくる。
リュウはその子達を笑いながら、嬉しそうに撫でている。
中には小さなドラゴンの姿もあった。
まだドラゴンとは戦った事はないがとても強大な力を持っている事だけは知っている。
子供のドラゴンでも村ぐらいは簡単に滅ぼせる、そんな存在をリュウは何て事なく撫でて可愛がっている。
私の常識と戦ってきた意味が崩れていく。
リュウは危険な世界で平然と笑っていた。
「ご覧の通りにリュウはとてつもない力を持っている。お嬢ちゃんは本当にリュウに勝てるのか?」
勝てない。
危険な世界で平然と生きている人に私が勝てるはずがない。
私のスキルに鑑定眼に近いスキルがあるがそれを使って鑑定してみるが結果は鑑定不能、初めて出た。
今まで倒してきた魔物達には通じてきたスキルが通じないと言う事はそれだけリュウは強いと言う事。
文字通り、格が違う。
「きっと勝てますよ。だってほら、ティアは勇者なんですよ。僕だって賢者で魔法でなら勝てるはずです。調教師が、リュウが僕達を追い越して強くなってるなんてありえない……」
タイガはそう言うがゲンさんは情報について嘘を付いた事はない。
いつもはっきりとした結果や事実だけを持ってくる。
グランやマリアさんも黙り込んでしまった。
私達では力不足だ。
「リュウからは八百長にしてしまわないか、と言う案も出てはいる。どうするんだお嬢ちゃん、戦うのはお嬢ちゃんだ」
そう言われても困る。
勝ち目もないし、リュウが魔物と仲良くしている事実についても頭の中を一度整理したい。
今の私では冷静に判断できない。
「…………ごめんなさい。今は一人で考えたい」
「なら今日の会議はここまでだな。それじゃ俺は部屋に戻るぞ」
「行くぞタイガ」
「はい。ティア、お休み……」
「うん、お休み」
そう言った後男性陣は部屋に戻った。
私達も寝よう。
「それじゃあマリアさん、アリスさん。お休みなさい」
「ええ、お休み」
「……お休みなさいです」
そう言って私は部屋に戻ってベッドに入った。
正直頭の中はぐちゃぐちゃだ。
一気にリュウの今の状況が頭に入って落ち着かない。
もしかして私はもうリュウにとって必要のない存在なのかもしれない。
あの映像を見る限り、リュウは幸せそうだった。
私はリュウの幸せを壊そうとしているの?私の勝手で?
でも出来れば安全な所で平和に暮らしてほしいのは変わらない。
出来れば私もその中に入りたい。
もう怖いのは嫌だ。
誰かが死んでいくのを見るのは嫌だ。
死んだ誰かの上を走るのは嫌だ。
次は私かもしれない恐怖に怯えるのはもう嫌だ。
ぐるぐると頭の中で本音が渦巻いているとノックの音が聞こえた。
どうぞと答えると入ってきたのはマリアさんとアリスさんだった。
「ティアちゃん大丈夫?」
「勇者様……」
「……すみません。少し、混乱してました」
私が起きると何故か二人は私のベッドに潜り込んできた。
マリアさんは私を抱き締めるし、アリスさんは遠慮がちに私の手を握った。
「えっと?」
「寝る前にアリスちゃんからリュウちゃんについて聞いておこうと思って」
「その、私がお話し出来る範囲ならお答えします。隊長より自分で見た感想の方が大きいと思いますが」
それは正直嬉しい。
ゲンさんは偏見などが生まれない様に自分の意見は言わずにただ事実だけを言う事の方が多い。
今は誰かから見たリュウの印象が聞きたかった。
「感想で構いません。その、リュウは……どうですか?」
「えっと、優しい方ですよ。ちょっと強引だったり無茶を言ったりしますがいつも私の事を気に掛けてくれました」
「従魔たちの事は?」
「実はその、従魔の皆さんとは最近会ったばかりでして分からない事の方が多いですがリュウさんの事好きみたいです。特に人間に対して攻撃的とかはありませんでした」
「そう」
もしかして私は偏見だけで戦ってきたのかもしれない。
今まで倒してきた魔物は皆知性が低く、ただ襲ってくるばかりだった。
何が原因で、何があったのか解明しようとせずただ倒すだけ。
それだけで戦ってきた。
「リュウが戦ってる理由って知ってる?」
「すみません、聞いた事無いです」
「そう……」
「えっと力になれなくてすみません」
「気にしないでください、自分で聞いてみます」
どうしてここまでの力を求めたのか知りたい。
そして自分でも手に入れる事が出来たらリュウの様にこの厳しい世界を笑って歩ける様になれるのだろうか?
「少しだけ落ち着いたみたいね」
「はい、ありがとうございます。マリアさん、アリスさん」
「私は大した事してないです!」
「それじゃ今日は皆で寝ましょうか」
「「え?」」
困惑する私とアリスさんを抱き締めたマリアさんは放してくれず仕方なくそのまま皆で寝る事になった。
夜、女子部屋のリビングで勇者パーティーとアリスさんを交えて相談する事にした。
「今回は私とリュウの決闘について相談したいと思います」
「決闘も何も話し合いでどうにかならないのか?」
「そうよティアちゃん。さすがに今回のは急過ぎるし、リュウちゃんの話だって分かるでしょ」
「分かりますけど……」
それは分かる。
けどせっかく危険のない生活に戻れるのだから戻った方が良いと私は思う。
この勇者と言う職になってから今まで何度も危険な目にあった。
様々な魔物と戦っていれば自然と命の危険はやってくる。
そんな世界から抜け出せるなら抜け出した方が幸せになれるはずだ。
確かに急なのは分かってる。
でもリュウには少しでも早くこの世界から抜け出して欲しい。
それなのにリュウは!
「だからってあんな言い方じゃなくてもいいじゃないですか。何よ、好きでやってるって」
「ティア、あんなリュウは昔みたいに殴ればいいんだよ」
「でも手加減はしないと……」
戦闘系の職についてる人と、ついていない人の差はとても大きい。
もし私が思いっきり殴ったらリュウを殺しちゃう事だって……あれ?
そう言えば私がリュウに抱き着いた時って思いっきりだったはず。
でもリュウは何て事無く受け止めていた。
「手加減どころが本気でやらないと負けるのはお嬢ちゃんの方だと俺は思うけどな」
ゲンさんが言ってきた。
私の方が負ける?普通に考えればそれはない。
でも、もしもあの時本当に難なく受け止めていたとすれば話は違ってくる。
「ゲンさんそれは流石に無いですよ。ティアが、勇者が調教師に負けるなんて」
「普通ならな。しかしあのリュウって調教師は普通じゃない。グラン、本当にたった一人の人間が何の実力も無くあの森を生き抜けると思えるか?」
「無理、だろうな。どれ程の魔獣とつるんでたかは知らないが普通は死ぬ。しかし調教師があの森を生き抜くだけの力を持てるとも思えない」
「そうだな、ならこれを見てくれ。最初に言っておくがこれは加工していない映像だ」
「……それ本当に見せちゃうんですか隊長」
「本人が良いって言ったんだ、問題ない」
アリスさんが何か不安そうに言ったがゲンさんは記録用の水晶をテーブルの真ん中に置いた。
そこに映し出されたのはリュウと知らない綺麗な女性だ。
恐らくメイドだろうか?メイド服を着た女性とリュウが拳を構えている。
すると突然激闘が始まった。
拳と拳がぶつかる度に衝撃が走り吹き飛ぶ。
その直接殴り合っているであろう腕と脚の動きは見えず、全てはっきりとは見えない。
ただ分かるのはあれは別次元の戦いだという事だけだ。
これを直接見たゲンさんとアリスさん以外は茫然として見ていた。
数分が経過した時には辺りは強い踏み込みで出来たのか、あちこちに足跡が出来ていた。
「これがあの森で生き抜いたリュウの実力だ」
「ちょっと、ちょっと待って下さい‼これが今のリュウの実力!?しかもあの女性は一体?」
「あの女性はアオイと言う名前でリュウの従魔だ。恐らくだがかなり名のある魔物だと俺は予想している」
タイガが今の私達の心情を代弁してくれた。
「魔物?しかも強い魔物がどうしてリュウの従魔に」
「簡単だ。リュウはあの魔物に勝った。それだけだろう」
訳が分からない。
およそ半年前まで普通の調教師だったはずのリュウがいきなりこれ程の力を持っている事もだし。
何より魔物と一緒に笑っている姿が目の前にあるのに信じられない。
戦闘後の映像なのかリュウの周りに様々な魔物だと思われる動物達が寄ってくる。
リュウはその子達を笑いながら、嬉しそうに撫でている。
中には小さなドラゴンの姿もあった。
まだドラゴンとは戦った事はないがとても強大な力を持っている事だけは知っている。
子供のドラゴンでも村ぐらいは簡単に滅ぼせる、そんな存在をリュウは何て事なく撫でて可愛がっている。
私の常識と戦ってきた意味が崩れていく。
リュウは危険な世界で平然と笑っていた。
「ご覧の通りにリュウはとてつもない力を持っている。お嬢ちゃんは本当にリュウに勝てるのか?」
勝てない。
危険な世界で平然と生きている人に私が勝てるはずがない。
私のスキルに鑑定眼に近いスキルがあるがそれを使って鑑定してみるが結果は鑑定不能、初めて出た。
今まで倒してきた魔物達には通じてきたスキルが通じないと言う事はそれだけリュウは強いと言う事。
文字通り、格が違う。
「きっと勝てますよ。だってほら、ティアは勇者なんですよ。僕だって賢者で魔法でなら勝てるはずです。調教師が、リュウが僕達を追い越して強くなってるなんてありえない……」
タイガはそう言うがゲンさんは情報について嘘を付いた事はない。
いつもはっきりとした結果や事実だけを持ってくる。
グランやマリアさんも黙り込んでしまった。
私達では力不足だ。
「リュウからは八百長にしてしまわないか、と言う案も出てはいる。どうするんだお嬢ちゃん、戦うのはお嬢ちゃんだ」
そう言われても困る。
勝ち目もないし、リュウが魔物と仲良くしている事実についても頭の中を一度整理したい。
今の私では冷静に判断できない。
「…………ごめんなさい。今は一人で考えたい」
「なら今日の会議はここまでだな。それじゃ俺は部屋に戻るぞ」
「行くぞタイガ」
「はい。ティア、お休み……」
「うん、お休み」
そう言った後男性陣は部屋に戻った。
私達も寝よう。
「それじゃあマリアさん、アリスさん。お休みなさい」
「ええ、お休み」
「……お休みなさいです」
そう言って私は部屋に戻ってベッドに入った。
正直頭の中はぐちゃぐちゃだ。
一気にリュウの今の状況が頭に入って落ち着かない。
もしかして私はもうリュウにとって必要のない存在なのかもしれない。
あの映像を見る限り、リュウは幸せそうだった。
私はリュウの幸せを壊そうとしているの?私の勝手で?
でも出来れば安全な所で平和に暮らしてほしいのは変わらない。
出来れば私もその中に入りたい。
もう怖いのは嫌だ。
誰かが死んでいくのを見るのは嫌だ。
死んだ誰かの上を走るのは嫌だ。
次は私かもしれない恐怖に怯えるのはもう嫌だ。
ぐるぐると頭の中で本音が渦巻いているとノックの音が聞こえた。
どうぞと答えると入ってきたのはマリアさんとアリスさんだった。
「ティアちゃん大丈夫?」
「勇者様……」
「……すみません。少し、混乱してました」
私が起きると何故か二人は私のベッドに潜り込んできた。
マリアさんは私を抱き締めるし、アリスさんは遠慮がちに私の手を握った。
「えっと?」
「寝る前にアリスちゃんからリュウちゃんについて聞いておこうと思って」
「その、私がお話し出来る範囲ならお答えします。隊長より自分で見た感想の方が大きいと思いますが」
それは正直嬉しい。
ゲンさんは偏見などが生まれない様に自分の意見は言わずにただ事実だけを言う事の方が多い。
今は誰かから見たリュウの印象が聞きたかった。
「感想で構いません。その、リュウは……どうですか?」
「えっと、優しい方ですよ。ちょっと強引だったり無茶を言ったりしますがいつも私の事を気に掛けてくれました」
「従魔たちの事は?」
「実はその、従魔の皆さんとは最近会ったばかりでして分からない事の方が多いですがリュウさんの事好きみたいです。特に人間に対して攻撃的とかはありませんでした」
「そう」
もしかして私は偏見だけで戦ってきたのかもしれない。
今まで倒してきた魔物は皆知性が低く、ただ襲ってくるばかりだった。
何が原因で、何があったのか解明しようとせずただ倒すだけ。
それだけで戦ってきた。
「リュウが戦ってる理由って知ってる?」
「すみません、聞いた事無いです」
「そう……」
「えっと力になれなくてすみません」
「気にしないでください、自分で聞いてみます」
どうしてここまでの力を求めたのか知りたい。
そして自分でも手に入れる事が出来たらリュウの様にこの厳しい世界を笑って歩ける様になれるのだろうか?
「少しだけ落ち着いたみたいね」
「はい、ありがとうございます。マリアさん、アリスさん」
「私は大した事してないです!」
「それじゃ今日は皆で寝ましょうか」
「「え?」」
困惑する私とアリスさんを抱き締めたマリアさんは放してくれず仕方なくそのまま皆で寝る事になった。